前号にも書いた通り、79号車のタイヤを中古車購入時に履いていたかなり使い込まれたものから、新品のミシュランに履き替えた。銘柄は同じパイロット・スポーツPS2で、ポルシェ認証のNマークが付いたものであるのも変わらない。ところが、交換していざ走り出してみると、その感触がまるで違っているのに驚かされた。新品タイヤには水と油をたっぷり含んだようなみずみずしい感触があったのだ。逆に言うと、旧いタイヤは水も油も抜けきって、カラカラに乾いた喉のような状態になっていたことがよくわかった。
しかし、そういうことは、実際に履き替えて比べてみないとなかなかわからないもので、実際のところ、これまでのタイヤでも、普通に運転している限りでは、特別に不具合を感じることはなかったのだ。実は、そこがミシュランのタイヤのいいところでもあるのだそうで、タイヤ交換をお願いした小林タイヤ商会の話では、他の高性能タイヤが使い込んでいくとあるところでガクンと性能が落ちるのに対して、ミシュランのタイヤは性能の劣化がとにかく緩やかなのだという。だから、古くなって硬化が進んできても、それほど気にならずに使えてしまう。しかし、タイヤは一種の生ものだから、5年以内で交換するのがいいようだ。
もうひとつのミシュランの長所は、サイド・ウォールに適度な弾力性があり、そのおかげで路面への追従性が極めて高いことにある、というのが小林タイヤ商会の見立てだ。とりわけ新品のタイヤでは、それを手にとるようにハッキリと体感することができる。まだ可変ダンパーのPASMが装着されるようになる前の996型の一発決めのダンパーはかなり硬めで、ドシン、バタンと路面の荒れを押さえつけるようにして走るのだが、その際の当たりが新品に替えてからは明らかに丸みを帯びている。そのおかげで長距離を乗っても疲れが以前より減っており、明らかに乗り心地が良くなった。
それと同時に、確実にグリップ限界が高くなっていることが、この9月の大雨続きの中で良くわかった。しっかりと路面を捉えているから、ちょっとやそっとのことでは滑らない。雨の高速道路の金属の目地段差を越える時でも、まったく不安を感じることがなかった。今回、撮影をかねて箱根の峠道を走ったのだが、路面への追従性が高いというのは、アップ・ダウンがあるワインディング・ロードを走る時には本当に重要なことだと改めて思い知らされた。コーナリング中の路面が少々荒れていても、タイヤが捉えている感触がしっかりと伝わってくるから、安心して運転に集中し、気持ち良く駆け抜けることができる。
逆に、タイヤのグリップが増してますます気になるようになったのは、ブレーキの効きと感触がいまひとつしっくりしないことで、これは996の時代はこんなものだったのか、それとも個体の問題なのか、判断しかねている。もう少し立ち上がりの効きがシャキッとしていて、そこから抜いていく時の感触がリニアだといいのだが。カレラ4Sにはターボのブレーキが奢られているはずなのに、こんなものなのだろうか。
■79号車/ポルシェ911 カレラ4S(996型)
PORSCHE 911 CARRERA 4S
購入価格(新車時) 340万円(1244万2500円)
導入時期 2017年4月
走行距離(購入後) 8万6020km(3635km)
文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=望月浩彦
(ENGINE 2017年12月号)
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