こういうクルマを見ると、ドイツ人というのは、つくづく何をするにも徹底してやり遂げなければ気が済まない人たちなのだと思う。とりわけハッキリとしたライバルがいる時の剥き出しの対抗心の発露には、ともすれば異様なものさえ感じてしまう。メルセデスAMG GT4ドア・クーペ、その仮想敵は言うまでもなくポルシェ・パナメーラである。
スポーツカー専業メーカーたるポルシェが、SUVのカイエンに続き、ついにフル4シーターの4ドア・クーペの領域にまで進出してきたことがどうしても許せなかった、ということなのだろうか。そうでなければ、ここまでサイズもほぼ同寸(ホイールベースにいたってはたったの1㎜違い)なら、エンジン・バリエーションも合わせたように同格のニューモデルを、これでもかとばかりにぶつけてくる必要があるとは思えない。
そもそも、スポーツカーの領域で戦うメルセデスAMG GTとポルシェ911ターボは、それぞれの伝統と持ち味を最大限に生かした、フロント・ミドシップの超ロングノーズ2シーターFRスポーツと、リア・エンジンで2+2シーターの実用性を兼ね備えた4WDスポーツという、ある種の清々しさを感じさせるようなライバル同士となっていた。
しかし、今度はどうだろうか。同じGTの名を冠していても、4ドア・クーペは2ドア・クーペやロードスターとはまったく別の成り立ちを持っている。4ドア・クーペは2ドア・クーペのようにフロント・ミドシップでもなければ、トランスアクスルのギア・ボックスを持っているわけでもない。中央に巨大なベンツ・マークを擁した押し出しの強い顔つきこそ共通とはいえ、真横から眺めればわかるように、あくまで普通の乗用車と同じプロフィールを持った、もっと言えばEクラスのプラットフォームにチューニングを重ねて作り上げられたのが、このGT4ドア・クーペなのだ。
むろん、メルセデスにしてみれば、先に自分たちの領土に侵入してきたのは、伝統や持ち味とは無縁の乗用車と同じ仕立てのプロフィールを持ったパナメーラを出してきたポルシェだと言うことになるのかも知れないが、それにしてもこの新たなライバル同士の戦いはあまりにもガチンコ勝負にすぎて、清々しさなど微塵も感じられないように思うのだ。
さて、そういうことを考えながら、日本上陸したてでまだナンバーも付いていないGT4ドア・クーペに富士スピードウェイで乗って、そのあまりの完成度の高さに心底唸らされた。本コースでの試乗に供されたのは63S4マティック・プラスという最強モデルだったが、なによりもまず、ボディとシャシーの剛性の高さに尋常ならざるものを感じた。
実はこの日、後からE63にも乗る機会を得たのだが、これまでサーキットを思い切り走ってもビクともしないと感じていたE63のボディが実はこんなにユルく、足はフニャフニャだったのか、と呆気に取られるくらいに大きな違いがあった。かつてこれほどまでに剛性感の高い4ドア・モデルに私は乗ったことがない。実際に乗り比べてみなければ正確なことは言えないが、恐らくパナメーラをもってしても、こと剛性感の高さに関してはGT4ドア・クーペには到底太刀打ちできないだろう。ライバルを見据えてとことん仕上げてきたに違いないと思わせる出来映えだった。
そしてまた、それだけボディとシャシーの剛性が高くなければ、これは受け止められないだろうと思わせるほど、4ℓV8ツインターボ・ユニットのパワー&トルクが凄まじかった。639ps/91.8kgmという数字だけ見ていても半端ではない速さは想像できるが、乗ると4輪で無駄なくトルクを路面に伝えて前に突き進んでいく冷徹な加速は想像以上で、あまりに安定していながら、その実とんでもないスピードが出ていることに恐怖すら感じたのである。
この日の富士は濃霧に包まれ直線でも数メートル先がよく見えないほど真っ白だったのだが、長い直線ではあっという間に200㎞/hを超え、250㎞/hの目盛りをもあっさりと跨ぎ超えそうになったあたりで、今日は霧がひどいから、を口実に右足を徐々に戻し始める自分がいた。
それにしても、クルマの電子制御技術というものは、この十数年の間になんと大きな進化を遂げたことだろうか。エンジンやブレーキ、エグゾーストはもちろん、リア・アクスル・ステアリング、電子制御のリミテッド・スリップ・デフ、ライド・コントロール・エア・サスペンション、スピードシフトMCT(マルチ・クラッチ・トランスミッション)、ダイナミック・エンジン・マウントなどなど、ありとあらゆる装備を統合制御して、ドライバーの力量ではとうてい出来ないことも可能にしてしまう。
正直言って、あまりにも電子制御が介入してくると運転の楽しみは半減してしまうが、このクルマの電子制御は決して出しゃばらない。しかし、コンフォート、スポーツ、スポーツ+、レースとドライビング・モードを切り換えるごとにハッキリとクルマの性格が変わることで、黒子として背後からドライバーを支えてくれていることに気付かされる。すべてにおいて完璧なクルマである。
ただ、53に外周路で試乗している時、エアサスの足がコンフォートでもかなり硬く感じたから、一般道での乗り心地に関しては我慢を強いられることもあるのかも知れない。それと車重が少し気になった。重いものが驚異的な速度で走るというのは、何か起きた時にどうなるのかという恐怖心を起こさせる。それをも電子制御がすべて解決してくれるのかも知れないが……。
いずれにせよ、これは勝っても勝っても、まだ勝ち足りない人にふさわしいクルマだ。でも、そういう人には乗って欲しくない気もするけど。
文=村上 政(ENGINE編集長)
メルセデスAMG GT 63 S 4MATIC+
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