昨年4月に82歳で亡くなったアニメーション監督の高畑勲。50代以上の読者であれば『アルプスの少女ハイジ』や『母をたずねて三千里』といったテレビの名作シリーズを懐かしく思うことだろう。その高畑監督の創作の秘密に迫る『高畑勲展―日本のアニメーションに遺したもの』が、竹橋の東京国立近代美術館で始まった(10月6日まで)。
1959年に東大仏文科を卒業後、東映動画(現・東映アニメーション)に入社した高畑監督。6歳年下の宮崎駿監督は東映動画時代の後輩に当たるが、宮崎監督との大きな違いは、自ら絵を描かないことにあった。
本展では、そんな高畑監督の演出術に注目。一切の妥協を許さない完璧主義者としての姿は、今回、初公開されている直筆の製作ノートやメモからも読み取ることができる。たとえば当時のテレビアニメとしては珍しく、海外にまでロケハンに出かけた『アルプスの少女ハイジ』 では、原作にはないヤギや牛、セントバーナードの生態や、アルプスの山々で作られていたチーズの種類までをも研究。あらゆる作品において徹底した取材を行い、それまで子供向けとされていたアニメに、大人が観ても納得のできるリアリティという魂を吹き込んだのである。
また4つのパートに分けられた本展を見ていくと、高畑作品の変遷がはっきりと分かるのが面白い。海外の古典文学を日本語で表現するのではなく、これからは日本を舞台にした作品をつくっていきたい。そんな思いから生まれたのが『火垂るの墓』や『おもひでぽろぽろ』、『平成狸合戦ぽんぽこ』といった劇場用アニメーション。さらに『ホーホケキョ となりの山田くん』、そして遺作の『かぐや姫の物語』では、従来のセル画様式から離れた、斬新な水彩画風の描法にも挑戦した。日本のアニメーションの礎を築いた功労者は、新しい題材やこれまでにない表現方法にも果敢に取り組んだ、革新的な演出家でもあったのである。
「日本人が日本のアニメーションを作る、とはどういうことか、いつも考えていました」と、語っていた高畑監督。その一途なまでの情熱が、日本のアニメを社会性をあわせ持つ娯楽に、そして世界が認める芸術にまで高めたのだろう。
本展では、膨大な量の絵コンテや背景画、レイアウト、色指定などを展示。高畑監督による取材メモや制作ノートなどとあわせてみると、どの作品もいかに緻密に作られているかが分かる。
「火垂るの墓」のイメージが浮かびあがる会場風景。
『高畑勲展-日本のアニメーションに遺したもの』は10月6日まで東京国立近代美術館で開催中
東京都千代田区北の丸公園3-1 Tel.03-5777-8600(ハローダイヤル)
展覧会公式サイト https://takahata-ten.jp
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文=永野正雄(ENGINE編集部)
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