誕生から24年が経っても、進化をし続けるロータス・エリーゼ。最新モデルはクラシカルなレーシングカーのような見た目通りのHOTな走りを見せてくれた。
ロータス・エリーゼは誕生した24年前からずっと、基本構造を変えることなく世界第一級の小型軽量スポーツカーであり続けている。つまり、24年間ずっとHOTなのだ。しかもエリーゼ、ここ最近さらにHOTに、アグレッシブになっている。
そのことに気がついたのは、2019年夏に追加された"ヘリテージ・エディション"に試乗した時だった。顔つきが第4世代となる現行型のエリーゼは、最高出力220psを発揮するスーパーチャージャー付きのトヨタ製1.8ℓ4気筒エンジンと6段MTの組み合わせのみで、装備の異なる"スポーツ220"と"スプリント220"という2つのグレードが日本市場に投入されている。試乗車はこのうち前者をベースにした、わずか30台の限定モデルだ。
外装のベース・カラーは往年のレーシング・カーを思わせるクリームがかったホワイトで、車体中央にグリーンのストライプが3本入っていた。室内に目を向ければ、オープン・ゲート式のシフトの周囲のパネルがボディ同色で塗られている。室内の樹脂のパネルも、丁寧に淡い緑のレザーで包まれていて、ぐっと落ち着いた雰囲気になっている。
事前に目を通しておいた資料によれば、コスメティックな変更をのぞけば、違いは通常オプションのハードトップが標準装備となっているくらいだった。そのため重量は約25kg増している。サイドシルの美しいレザーは、乗り込む時にそうとう気をつけなければ、すぐに踵で引っかけて傷だらけにしてしまいそうだ。
こうした限定車商法はロータスにとって手慣れたもので、24年の間にどれだけ登場したか分からない。選択肢が多いのはいいことだけど、試乗前は正直、重くて豪華絢爛なエリーゼだなんて、ナンセンスの極みじゃないか、とすら思っていた。
乗り込んで最初に思ったのは、室内の居心地の良さだ。座るのも降りるのも一苦労だけど、いったん身体がはまってしまえば、ハードトップを備えたエリーゼは、簡素な折りたたみ式の幌に比べ室内が静かで、ずっと運転に集中できる。
それでいて同じく屋根があるエキシージのように、リア・カウルのせいでまったく後ろが見えない、なんてこともない。
ところが走り出すと、頭の中にクエスチョン・マークが浮かんだままになった。操舵に対する反応が、記憶の中のエリーゼと全然違うのだ。
その答えは資料に記載のなかったタイヤにあった。輸入元によれば、ヘリテージ・エディションを含むエリーゼのタイヤは、2018年秋導入の19年モデルから銘柄もサイズも変わった。新しい靴は横浜タイヤのアドバン・スポーツV105で、従来のアドバン・ネオバA048LTSというロータス認証タイヤより、ややコンフォートよりの性格だという。後輪は225/45R17と同サイズだが、前輪は175/55R16から195/50R16にアップしている。
ここ数年のエリーゼのステアリングの感触は、特に低速域だとまとわりつくような重さがまったくなく、鼻先の向きを意のままに操れるのがたまらなく気持ちがよかった。
基本のセッティングも、あくまで公道走行に主軸を置いたもので、リアの動きをとにかく安定させて、最終的にはフロント・タイヤが先に外へ逃げるようにしていた。ところがヘリテージ・エディションはそうじゃない。
手応えはこれまでよりずっと重く、初期の応答性はやや鈍い。けれど速度をかなり上げてもぐいぐい曲がっていく。そしてしだいにお尻が外へ降り出し、回り込むような動きをするのが感じ取れる。
アドバン・スポーツのグリップ力は驚くほど高く、公道で限界を引き出そうとはとても思わなかったけれど、このいかにも手練れのドライバー向けの味つけは、初期のエリーゼや4気筒時代のエキシージに通ずる、ある種の緊張感が漂うものだと、僕は思った。
ロータスは吉利汽車(ジーリー)傘下でEVのハイパー・スポーツカー、エヴァイヤを産み出し、新たな境地を探っている真っ最中だ。けれど、エリーゼだってまだ終わっていない。見た目こそほとんど変わっていないが、24年目にして、さらなる高みを目指そうとしているのだ。
■ロータス・エリーゼ・ヘリテージ・エディション
駆動方式 ミドシップ横置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 3824×1720×1130mm
ホイールベース 2300mm
トレッド(前/後) 1455/1505mm
車検証記載車両重量 940kg(前軸重量360kg:後軸重量580kg)
エンジン形式 水冷直列4気筒DOHCスーパーチャージャー
ボア×ストローク 80.5×88.3mm
排気量 1798cc
最高出力 220ps/6800rpm
最大トルク 25.4kgm/4600rpm
トランスミッション 6段MT
サスペンション(前後) ダブルウィッシュボーン
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 195/50R16/225/45R17
車両本体価格(10%税込) 789万5250円
文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=山田真人
(ENGINE2019年12月号)
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