今年で83歳となったケン・ ローチは、現役で活躍する最も偉大なイギリス人監督の一人だ。カンヌ国際映画祭のパルムドール(最高賞)を2度も受賞したローチは、これまで労働者や社会的弱者が直面する 厳しい現実を描いてきた。その一貫した姿勢は本作『家族を想うとき』でも変わらない。
日本においてもフランチャイズ・オーナーたちの過酷な労働実態や、ブラック企業による被害が近年大きな社会問題と化しているが、この映画の主人公リッキーを取り巻くのも、まさにそんな状況だ。
銀行と住宅金融組合の破綻により建設作業員の職を失ったリッキーは、悲願のマイホームを手に入れるため、フランチャイズの宅配ドライバー として働き始める。だが個人事業主とは名ばかりで、現実は本部の上司から、理不尽なシステムによる長時間労働を押し付けられる毎日。
一方、パ ートタイムの介護福祉士である妻も、最低限の賃金で一日中働いている。家族との時間さえまともに持てない2人の労働環境は、やがて16歳の息子と12歳の娘との関係にも暗い影を落としていく......。
本作ではまず、家族を演じる4人の役者たちが素晴らしい。父親役のクリス・ヒッチェンが本格的に芝居を始めたのは5年ほど前で、それまでは自営の配管工だったという。そのほかの俳優もすべて無名だが、逆に彼らの飾り気のない存在感が、リアルな生活の匂いを作品に与えている。
またこれまでの作品と同様、ケン・ローチは安易な逃げに走らない。リアリズムに徹した内容はドキュメンタリーのようでもあるが、家族のために必死に人生を立て直そうとする父親の姿は、どこかイタリアン・ネオレアリズモの名作『自転車泥棒』を彷彿とさせる。
次第に袋小路に追い詰められていく家族の姿は見ていてつらい。だが本作には、それ以上に印象的な、家族の絆を描く瞬間がいくつかある。ケン・ローチ監督の家族に対する目線は常に温かい。その温かさが、本作が孕むテーマを、より切実に我々に突きつけてくるのである。
100分。配給 : ロング ライド。 12月13日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
文=永野正雄(ENGINE編集部)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
2024.05.06
LIFESTYLE
レコードバーって知ってますか? アナログ・レコードを聴きながらお酒…
2024.05.03
CARS
【エンジン音付き!】新型フェラーリ発表! その名も「12チリンドリ…
PR | 2024.05.07
WATCHES
「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」2024年春の新作 …
2024.04.25
LIFESTYLE
McLaren Artura Spider × LANVIN CO…
2024.05.05
LIFESTYLE
著名な陶芸家がかつて住んだ朽ちかけた古民家をリノベーション 古道具…
2024.05.01
CARS
なんてお洒落な! 新車同然(いや新車以上!)の190SLと280S…
advertisement
2024.05.10
「なるほどアメリカで売れるワケだ」 ホンダのフラッグシップ・セダン、新型アコードにモータージャーナリストの国沢光宏が試乗!
2024.05.09
普通の人がファミリーカーとしてBMWを買うならこっち! BMW X1のディーゼル・モデルにモータージャーナリストの森口将之が試乗! 贅が尽くされている
2024.05.12
「走ることが大好きなクルマ通からすれば、正真正銘の天国」 モータージャーナリストの国沢光宏がポルシェ911GT3 RSほか5台の輸入車に試乗!
2024.05.12
釣りも潜りも焚き火もやる人にはこの時計がおすすめ! タグ・ホイヤー アクアレーサー 300m防水でGMTは最強旅時計!
2024.05.08
メルセデス・ベンツはこの顔じゃないと! EQSが伝統の横基調グリルを採用するマイナーチェンジを実施