タイプ991の後期型で一部特殊なモデル以外はターボ過給エンジンに転じた911だが、992ではシャシーに大鉈を振るってきた。後輪駆動モデルも4輪駆動モデルに準じたワイド・ボディとした上で、フロントのトレッド(左右輪間距離)を大胆に拡大してきた。シャシーの幾何学的ポテンシャルを引き上げてきたのである。そのせいで、左右のヘッドライトが離れて見えるようになった。カレラSは3.0ℓターボ過給エンジンの高出力仕様を載せる。
全長×全幅×全高=4520×1850×1290mm(スポーツ・シャシー仕様)。ホイールベース=2450mm。カレラS(標準仕様)の価格は1696万8519円(税込)。試乗車にはPASM付きスポーツ・シャシーのオプションが付いている。
誰がどうみても911というシルエットやディテールはまさに歴史の積層体。ただし、先代のカレラ4系と同じ、1850mmのワイド・ボディはさすがにちょっと大きいか……と思うのはオッさんの戯言と思ってもらっていい。992型は今を生きる911である。同級のパフォーマンスをもつ現在のスポーツカーたちに比べればこれでもまだ寸法的には慎ましく、走ればさらに、大きさは気にならなくなる。RRという伝統的かつ特異なレイアウトは、普通に乗る分には今やポジティブな面しか顔を覗かせない。
21世紀と相前後して巧みな電子制御を織り込むことでパフォーマンスを民主的に高めてきた911は、苦手の雨をも自動的に察知して制御をスタビリティ増強側に振る機能も今や備えている。そこから向こうのレーシング・スピードにおいては言わずもがな、911としての走りの矜持を磨き続けているわけだが、並行してスキルを問わず、走るも停まるも思い切り踏めば全力で最善を供するというアクティブ・セーフティを常にアップデートしている辺りはさすがだと思う。
911カレラSのスゴいところは、"CASE"に代表される自動車へ課せられた社会的な課題や要請に十分に応えつつ、911シリーズが長年維持し続けてきた魅力と両立しているところ。まず、ドライバー・インターフェイスの革新が著しい。911の誕生以来のアイデンティティともなっているドライバー真正面に位置する大型回転計だけがリアルな針を持っているのに対して、他の機能の表示はすべて正面と中央のモニター画面にデジタルで表示される。
現代のスポーツカーは走行性能だけ高ければ良いわけではなく、安全やコネクティビティのための多様な機能が備わっていなければならないとポルシェは考えている。多機能化やデジタル化で改められるものを滞りなく進化させている実行力もスゴく、シフト・セレクターはもはや小さなスイッチに過ぎない。走り出せばこれまで以上に洗練されている点もスゴい。速い上に、アスファルト舗装の粒々が手の平に伝わってくるかのようなダイレクト感も、依然として大いに刺激的である。911は社会的スポーツカーだ。
ちょっと前に乗った992のカレラ4Sは、リア・サスペンションのしっかり感、ボディの強靭さが以前にも増してすっごく良くなっていたのだけれど、「ヒリヒリ感が薄れて随分安定志向になったな」と思ったのも事実。しかし、今回2駆のカレラSに乗って驚いた。カレラ4Sの良さはそのままに、フロントが軽やか(しかも安心感は損なわれていない!)になって、コーナーでのノーズの入りが抜群に良い。そしてコントローラブル。「おいおい、俄然スポーツカーじゃんか!」と興奮状態がピークになったところで、ふと気がついた。
いつの間にかターボを自然と受け入れている自分がいる!しかも450psの3.0ℓユニットと8段PDKとの相性が抜群で、MTが恋しくなる隙を与えない。よりGTになったカレラ4Sと、スポーツカー道を突き進むカレラS。そのキャラの住み分け方が見事でそれぞれが濃い。噛んでも噛んでも味が出てくる感じ。2020年になっても911が911であり続けてくれていることを素直に感謝できる1台。嗚呼神様、また良いクルマに出会ってしまいました。
専門家スジでは相当変わったって話の992型。電動化を睨んでプラットフォームから新設計、ボディの7割がアルミ化され、ギアボックス内にモーター用スペースが出来たとか、初の8段PDKとかいろいろ言われてるけど小沢的には逆に変わらなさに驚く。乗るなりメーターは真ん中の回転計を除きフルデジタル化。だが表示ロジックはほぼ変わらず。走り出したとたん、ソリッドなステアリング・フィールがまごう事なき911風味。センターの感触が重めで切るとその刹那にノーズがついてくる。この味わいはヘタすると空冷911と相通じる。懐かしい!
もちろん乗り心地は良くなったし、アルミ化で振動の伝わり方が微妙に鈍った気がする。しかし直6ほど鋭すぎない、トルクの塊みたいな3ℓフラット6の回転フィールは相変わらずだし、ペダルを踏んだとたん、タイヤに棒でも突っ込まれたのか!って効き具合のブレーキも同じ。そしてこの裏には老舗ラーメン屋の常連の如きガンコ客の存在を感じる。走りにウルサイ客に育てられた。そういう味です。
(ENGINE2020年4月号)
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