2019年10月に上陸したメルセデス・ベンツAクラスの最強モデル。メルセデスAMG社のマイスターが最初から最後まで手作業で組み上げた2リッター直4ターボは、なんとリッター200psオーバー! 最高出力421ps/6750rpm、最大トルク500Nm/5000~5250rpmを発生し、8段自動MTを介し4輪を駆動する。0-100㎞/h加速3.9秒! 当然のごとくボディは強化され、外観もエアロパーツで武装する。全長×全幅×全高=4445×1850×1410㎜。ホイールベース=2730㎜。車両重量=1640㎏。車両本体価格=790万円。
もう瞬時も迷うことなく自動車史上最強の市販車用2リッター・エンジンであります! 421ps/500Nmと、単純に考えても2.1バールの過給圧を与えている! どんだけ大きいタービン使っているのか? それでいてドッカン・ターボかといえば、全くそんなことない。むしろ300ps級ターボよりアクセル・レスポンスは良いほど。考えてみたらメルセデスって世界最高峰のF1でターボ・エンジン技術を磨いているのだから当然か。
8段ツイン・クラッチの滑らかさやダイレクト感も絶妙! アクセル開けながらマニュアルでシフトアップしていくと、変速の度に「ぼわっ!」という素敵な音を響かせる。車体もエンジンと同じくらい驚いた。Aクラスのカッコをしてるだけで、中身はピュア・スポーツモデル! ボディ骨格から競技車両のような補強を入れているんだと思う。「羊の皮を被った狼」度合いはハンパ無し! 目立つのが嫌いなお金持ちなら標準ボディで乗るのもいいけれど、私ならカッコ良いエアロキット付きの『エディション1』にしますね!
2.1barの超高過給ターボにより、2.0ℓ直列4気筒エンジンで世界最強の421psを誇るA45S。そこから生み出される加速力、速さ、トルク、刺激、排気音など、これらすべて独自の魅力と言っていい。しかし注目はさらに奥深いところにある。コンパクトなボディでこれだけの高出力&高トルクが扱えるのも、すべてはリアの機械式ベクタリングのなせる業だ。
これまで小型車では搭載スペースや重量などが課題となり、機械式ではなくブレーキを使ったベクタリングが主流だった。しかしAMGは最強のエンジンとともにこだわり、激しい走りでも駆動力を減少させずにダイレクトなベクタリング効果を得られる機械式を選んだ。これは旋回力や速さに加えて、脚まわりの過剰な強化を抑えられるメリットもあり、快適な乗り心地すら手中にしている。さらにここに最新の運転支援機構まで付くのだ。唯一の問題は、メルセデス・ベンツの入門モデルとなるAクラスに900万円を払うのは……という固定観念との戦いだろう。
いかにターボがけでも、2.0ℓ4気筒で421psって、なんかの間違い!?……というくらいにスゴイ。「排気量1リッターあたり100ps」が高性能のボーダーだった、わが青春時代ははるか昔である。「最新の電子制御ならなんでもできるでしょ!?」としたり顔する向きもあるかもしれない。しかし、リッター200ps超、Cセグメントに5.0ℓ級の最大トルク……は、さすがに生半可では成立しないことは、このA45が完全な公道レーサーの味わいになっていることで実感する。A45はアイドリングしているだけで不穏に身震いして、乗り心地はいつもズンズンと重低音で揺すられる。
F1常勝の技術はハンパない。走行モードが最も穏当な「コンフォート」でも、戦闘力は客観的にCセグのトップレベルにあり、その上の「スポーツ」ではもう無敵。そして最上の「スポーツ+」にいたると、銃弾のごとく加速して、ハンドスピナーのように曲がる。コンパクト・スポーツとしては異次元級にスゴイとしかいいようがない。
正直、ぶっ飛んだ。これほど凄まじい味になってるとは思わなんだ。確かにプラットフォームから一新、FRメルセデスに近い走り味を得た新型コンパクトの4代目Aクラス。ソイツの最速バージョンだけに期待もしてたが、正直「やたら速くて足が硬いAクラス」のイメージからは逸脱していなかった。
ところが新型A45Sに乗るなり、何事!と思う。シートの背中が硬い。当初は360psだった2ℓエンジンは今回世界一たる421psに強化! 聞けばブロックから新作で排気をわざわざ前方から後方に切り替えたほぼオール手作り。サウンドからしてほとんどラッパ。空気を限界まで燃焼室に取り込んでるのが分かる音作りで、しかも極低回転域からトルクの塊。さらにビックリはフルタイム4WDシステムで、新型からリアデフにクラッチが2枚備わって、コーナリング中に外側輪を増速! まるで一時のランエボのように異様な速さで異様に曲がるのだ。タイヤの限界付近でもステアリングを切ってアクセル踏んだらそっちに一直線! マジでWRCでも出たら?
421ps/500Nmという数値は、ひと昔前なら6気筒以上で大排気量のエンジンに馴染むパワースペックだった。ところがA45のエンジンは1991ccの直列4気筒ターボである。「2リッターチョクヨン」でこのパワーは驚くべき事態であり、技術の進化にはほとほと敬服する。AクラスのAMGには他にA35もあるが、A45のエンジンはAMGの工場で熟練工が1機ずつ手組みをし、吸排気系はA35と逆のレイアウトを採るなど各所が専用設計なので、同じ「2リッターチョクヨン」でもA35のユニットとは完全なる別物である。
ドライブモードに「RACE」といういわゆるドリフトモードもあって、全体的にサーキット走行も前提のセッティングだから、一般道で乗ると残念ながらこのクルマのポテンシャルの20%も発揮できない。「Comfort」を選んでも乗り心地はやや硬めで、スロットルを開ければ後方から勇ましい音が聞こえてくる。「こいつをサーキットで振り回したらさぞや気持ちいいだろうな」と思いを馳せるけれど、それだけでワクワクしてしまうクルマでもある。
(ENGINE2020年4月号)
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