海に囲まれた地理的な条件から、日本は古来より侵略は少なかったが、自然の災厄に常にさらされ、今も途切れることがない。
折り重なった海底プレートによる地震、群居する火山の噴火。そして南洋で発生する台風は、毎年秋に列島を最終地点に定める。
昨年9月、台風15号が首都圏を直撃した。特に被害が甚大だったのが千葉県で、家屋の全壊・半壊は首都圏の被害全体の9割近くに及んだ。こうした災害時に活躍するのが防水性と耐久性に富んだブルーシート。壊れた屋根や壁から被災者の暮らしを守った。
千葉県出身でファッションブランド「NEXUSⅦ.(ネクサスセブン)」を展開するニュートラックス代表兼デザイナーの今野智弘さんは、まだ多くの地域でシートが使われていた9月下旬から、再生プロジェクト「ザ・フィフティーン」に向けて動き出す。
ブルーシートは復興が進めば用済みで、そのままでは大量のゴミとなる。今野さんはこれをバッグに仕立てることにした。もともと自衛隊のビニールシートを使用した経験があったことも大きい。
地元の友人知己の協力も得ながら、自ら回収に奔走する。タフな素材とはいっても、使用の状況によってコンディションはさまざま。集めた2千枚からリサイクルに耐えうるものを選別、丁寧に洗浄し、サイズが異なる4種のトートタイプに仕上げた。
今年3月から公式オンラインショップでオーダーを受け付け、その後直営旗艦店や他のセレクトショップでも販売を開始。売上の20%が復興支援として千葉県に寄付される。
「勿体ない」という言葉は、物の価値を充分に生かしきっていないという懺悔が込められた日本特有の表現だという。避けられない自然災害からの復活を繰り返しながら、日本人は命がないものすら慈しむ美意識を育んできた。
ブルーシートからバッグという新たなる用途、形状へのアップサイクルにもそれは息づき、最後のダメージである忘却と無関心から被災地を救おうとしている。
文=酒向充英(KATANA) 写真=杉山節夫
(ENGINE2020年6月号)
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