よく5m走っただけでクルマのことがわかるというけれど、確かにそのとおり。ボルボのセダン、S60のエントリー・モデルのT4モメンタムに乗って、思わず膝を叩いて「これはいいぞ!」と興奮してしまった。
まあ、5mというのは大げさだが、走り出してすぐにわかった。何がわかったって、乗り心地がもう全然違う。うっとりするほど滑らかで気持ちがいいことこの上ない。実は試乗する前から、乗り心地がいいに違いないと思ってはいたけれど、まさかこれほどとは思わなかった。
S60にはこのT4モメンタムとT5インスクリプション、T6ツイン・エンジンAWD、そしてT8ポールスター・エンジニアードの4モデルがラインナップされているが、これまで広報試乗車はT5、T6、T8の3モデルしか用意されていなかった。
今回、S60の国内導入から半年遅れで、ようやくベース・モデルのT4に試乗できたわけだが、注目していたのは225/50サイズの17インチ・タイヤを履く、T4の乗り心地だった。
というのも、中間モデルのT5は、254馬力もあってパワーは申し分ないし、走りもスポーティだったが、その分乗り心地も硬めだった。さらに、その上のモデルのT6はパワーも乗り心地の良さも申し分ないが、最新のプラグイン・ハイブリッドということもあって779万円と価格が高い。
そこで目をつけていたのが、489万円(T5より125万円も安い!)のT4モメンタムだ。しかもこのT4、ほかのT5やT6が235/45の18インチのタイヤを履くのに対して、ワンサイズ下の17インチが標準として設定されているというではないか。
クルマのデキは標準仕様のタイヤを履く、なるべく余計な装備のついていないベーシックなモデルで見極めよ、という本誌サイトー記者の言葉を思い浮かべながら試乗した感想が、冒頭の「これはいいぞ!」だったというわけだ。
あらためて詳しく報告すると、T4のアシは決して柔らかいわけではない。というのも、アシの設定は254馬力のT5と全く同じだという。つまりかなりスポーティな仕様になっているはずで、実際乗り心地がフワフワするようなことはない。
それどころか飛ばしてもけっこうイケる躾になっている。ちなみにT4の最高出力は190馬力だが、強羅をベースに行われた試乗会では、あいにくの雨のなかではあったものの、箱根のワインディングを気持ち良く走ることができた。
誤解のないように付け加えておくと、18インチのT5は、飛ばすと気持ちのいいクルマだ。特に高速道路では硬さと柔らかさのバランスがちょうどいい。その一方で、低速でのザラつきと、荒れた路面のゴツゴツした突き上げが気になることも多々あった。
17インチを履くT4の乗り心地は、ちょうどこのT5のザラつきやゴツゴツ感だけを取り除いた感じと言えばわかってもらえるだろうか。硬さと柔らかさのバランスも良く、低速でも滑らか。多少の荒れた路面でも突き上げも少なくスムーズに走る。正直、タイヤがワンサイズ変わっただけで、ここまで違うとは思ってもみなかった。びっくりである。
もうひとつプラグイン・ハイブリッドのT6との比較も報告しておくと、バッテリーやハイブリッド・システムを積んだT6は車重が2トンを超えるので、走りもそのぶんどっしりしていて大人の乗り味になっているが、高級感のあるしっとりとした乗り味のT6に対して、T4は爽やかで若々しいという印象だった。
今回はじめてT4に乗ってみて、S60のラインナップも個性的で相当魅力があると、あらためて感心させられた。919万円のハイブリッド・スポーツのT8ポールスター・エンジニアードからT4まで、それぞれのモデルが単に価格差だけではなくて、絶妙に性格が変えてある。
T4はエントリー・モデル的な位置づけだが、実は標準仕様のファブリックの内装なんて、もしかするとシンプルなスウェーデンのライフスタイルを一番体現しているモデルかもしれないと思った。やっぱり、こういうベーシックなクルマはステキです。
■ボルボS60 T4モメンタム
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4760×1850×1435㎜
ホイールベース 2870㎜
車両重量 1680㎏(ガラスルーフ付き)
エンジン形式 水冷直列4気筒DOHCターボ
排気量 1968㏄
最高出力 190ps/5000rpm
最大トルク 30.6kgm/1400-4000rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション前 ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション後 マルチリンク/リーフ
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前後) 225/50R17
車両価格(税込) 489万円
文=塩澤則浩(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦
(ENGINE2020年6月号)
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