20世紀を代表するフィンランドの建築家、アルヴァ・アアルト。その偉大な功績に隠れたもうひとりのアアルトがいたことを知っていますか?
20世紀を代表する建築家である、フィンランドのアルヴァ・アアルト(1898-1976)。パイミオのサナトリウムや自邸などの建築、スツール60などのアルテック社の家具はよく知られた作品だ。実はこうした代表作に、建築家であった最初の妻、アイノ(1894-1949)が大きくかかわっている。だが、どうしても巨匠のアルヴァにスポットが当たってしまい、彼女の功績は広くは知られてこなかった。そんな中、アイノに焦点を当てた世田谷美術館の展覧会『アイノとアルヴァ 二人のアアルト』が話題になっている。
フィンランドは、先ごろ発表されたジェンダー指数でも第2位となるなど、世界でもトップレベルで男女が平等な国。1906年、世界で最初に女性に選挙権、被選挙権が与えられたのもこの国である。そんな進んだ国でも、100年前はアイノのように大学に行き、しかも建築を学んだ女性は珍しかった。
同じ大学だった二人は一緒に働き始めるとすぐに結婚。ほどなく子供が生まれるが、お手伝いさんを雇いながらアイノは働き続ける。アルテック社のアートディレクターに就任してからは、アルヴァは事務所を兼ねる自宅で働く一方、アイノは毎日アルテックのオフィスに通っていたそうだ。既にこの頃のフィンランドでは女性が働くことは一般的。女性ゆえに不当に扱われたことはけしてない。
アルヴァとアイノは、お互いに影響しあいながら成長していく。間違いないのは、アイノに豊かな才能があったこと。アアルトの仕事として歴史上評価の高いものの多くは、アイノが生きていた時代のものだ。アルヴァは随分とアイノに相談したそうで、彼女の死後アアルトの仕事からは、ある種の輝きが失われてしまったように思う。共同名義の二人の仕事でアイノの役割を明確にすることはできないが、今回の展示品の中で子供部屋やキッチンのアイディアは、アイノによるところが大きいとされている。しかもそうした仕事が、現代の目からしても魅力的なのだ。歴史上、最初に活躍した女性建築家・デザイナーがフィンランドから登場したのは偶然ではないと思う。
「アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランド―建築・デザインの神話」は6月20日まで世田谷美術館(東京都世田谷区砧公園1-2 Tel.03-3415-6011)で開催中 日時指定予約制 詳細は公式ウェブサイトまで https://www.setagayaartmuseum.or.jp
(ENGINE2021年6月号)
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文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー)
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