2023.11.15

CARS

「GT-Rは間もなく死ぬ」のか? 自動車評論家の清水草一が、GT-Rの2024年モデルと日本で一番売れているEVのサクラに乗って、日産の未来を考えた!

いまの日産を象徴する2台、GT-Rとサクラ。

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日産のいまを象徴する2台に乗って考える。かたやポルシェ・ターボを追撃すべく生まれた特異なスーパーカーのGT-R。こなた軽自動車規格というガラパゴスの中で生まれた小型BEVのサクラ。かつて日産ガゼールとともに青春を過ごしたというモータージャーナリストの清水草一はこの2台に乗って、何を感じ、何を思ったのか。

不滅の宇宙戦艦ヤマト

このところの日産は、クルマ趣味人にとって「悪くない」、あるいは「かなりいい」という印象だ。国内市場では販売不振のモデルを続々と整理し、現在は少数精鋭のラインナップとなっている。しかもその中には、マニアが争って欲しがるモデルがいくつか存在する。

2024年モデルのGT-Rはピュア/ブラック/プレミアム/トラック(エンジニアード・バイ・ニスモ)という4種のエディションという名のグレードに加え、プレミアムとトラックに特別な内外装色を選択できるTスペックを設定。試乗車はプレミアムのTスペックで、カーボン・セラミック・ブレーキや専用エンジン・カバー、鍛造ホイールなども装備する。また、さらなる上位モデルとしてGT-Rニスモの設定があり、最高出力/最大トルクは通常モデルの570ps/637Nmから600ps/652Nmにまで引き上げられている。

筆頭は、言うまでもなくGT-Rだ。誕生からすでに16年を迎えながら、人気はうなぎのぼりで、2024年モデルに至っては、抽選倍率が数十倍に達したとか(はっきりしたことは不明)。多数のコレクションを持つ著名なスポーツカー・マニアも、公平なる抽選の洗礼を受けて見事落選し、「〇〇さんでも買えないクルマがあるんですね」と感心されていたりする。それがフェラーリでもランボルギーニでもなく日産車なのだから、日産、凄い! と言ってしまって間違いはないだろう。

実際、GT-R2024年モデルのパフォーマンスは凄い。間違いなく世界最速クラスだ。

GT-Rの凄さは、スペックでは推し量れない部分がある。2007年発表当時のモデルは、最高出力480馬力でしかなかったが、実際の速さは、欧州製の600馬力級マシンを上回っていた。今回試乗した2024年モデル(Tスペック)は570馬力だが、おそらく通常の700馬力級マシン以上の速さを持つのではないか。チューンすれば1000馬力オーバーも楽勝。市販車に敵はいない。

その存在は、生きる伝説となっている。ゲームソフト『グランツーリスモ』の主役として世界にその名を轟かせ、映画『ワイルド・スピード』にも登場。今回、取材中に立ち寄った首都高・大黒PAでも、外国人マニア数名がGT-Rを目ざとく見つけ、「写真を撮っていいか」と近寄ってきた。GT-Rは日本が誇る世界的スターである。

GT-Rのような純内燃エンジン搭載のスポーツカーは、間もなく新車販売ができなくなると思われていたが、日産はまさかの努力により騒音規制をクリア。EUの合成燃料認可やユーロ7の延期など、有利な材料が続いている。特別なパフォーマンスを持つ特別なスポーツカーは、高価な合成燃料を使えば、2035年以降も存続できる。「2035年までに新車販売をすべて電動車(ハイブリッド含む)にする」としている日本もそれに倣うだろう。





ひょっとすると現行GT-Rは、2035年になっても、まだ生きているかもしれない。28歳(!)の超ベテランでも、パフォーマンスが世界一級のままならば、引退する必要はないはずだ。不滅の宇宙戦艦ヤマトとして、世界に君臨し続けるのも不可能ではない気がしてくる。

しかし不安もある。現在、GTRの新車が奪い合いになっているのは日本国内だけらしい。欧州市場からはすでに撤退しているし、かつてGT-Rの最大市場だったアメリカでも、近年販売台数がやせ細っている。2023年1~8月は、日本408台に対してアメリカ269台。いかに大きな改良を受けているとは言え、登場から16年経つモデルのトップグレードが、当初の数倍のプライスタグ(NISMOのUSA価格/22万990$、(1$=148円換算で約3270万円)をぶら下げていれば、「天文学的」と言いたくなる気持ちもわかる。

日本における異常人気も、開発陣のたゆまぬ努力に加えて、国民が「GT-Rは間もなく死ぬ」と信じているからではないか。日本人ならば、轟沈する前にわれらが戦艦大和を手に入れておきたいと願うのは自然なことだ。しかし、「ずーっと作りますよ!」となれば、高騰した相場が崩壊する可能性もある。次期モデルの登場はまだ現実味がない。現在のGT-Rの技術と人気が、果たして未来につながるのかどうか先は見えない。何らかの形でバトンタッチされることを祈るのみだ。

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