現在ラインナップする4座オープンカーの中で、かなりスポーティな部類に入るこの2台。しかし、単に有り余るようなエンジン出力を有していたり、ハンドリングがいいだけでなく、快適性やエンターテインメント性にも優れる、まさに“全部有り”の完璧なクルマだった。
新井 今回はBMW・M8カブリオレとポルシェ911カブリオレ。ドイツを代表する2台のスポーツ・モデルの屋根開き仕様です。
村上 M8カブリオレをENGINEで取り上げるのは初めて?
新井 ですね。
村上 いきなり本題に入るけど、この2台に乗ってスゴイと思ったのは、ドイツ人というかドイツ車は何でもすべて取り入れて、“全部アリ”なものを作ってしまうということ。911のカブリオレに乗ってロケ地に向かったのだけれど、その間ずっと、「これは全部アリのクルマだな」とつくづく感心しながら走って行った。
塩澤 同じ号で乗ったイギリス車のオープンカー3台と比べるとドイツ車の完璧主義が貫かれている。
村上 イギリス車の世界って、僕たちはよくエキセントリックという言葉を使うけれど、何かについてすごく突出したものを求めていると思う。それに対してドイツ車がやっているのはオールマイティなものなんだよ。しかも、それを完璧に実現できてしまっているのが、スゴイとしか言いようがないと思った理由なんだ。
塩澤 全部入りのオール・イン・ワンってやつだ。
村上 そう。でも、ドイツ車だってポルシェ911なんかは本来的にはオールマイティではなくてもいいはずだよね。しかし、いまやボタンひとつでウインド・ディフューザーが自動で出てくる。まるで執事が後ろの席に居るみたい。スイッチひとつで風仕舞いが物凄くよくなる。
塩澤 あれには恐れ入ったな。
荒井 ただ、風が入って来ないから夏はかえって暑い。
新井 そういうときはエアコンを使ってください。ちゃんと効きますから(笑)。
村上 至れり尽くせりというのかな、何の文句もない気分で走ることができる。もうひとつ重要だなと思ったのは、欧州の人にとってオープンというのはクルマの機能のひとつだということ。だからこそ、オープンにした時の快適性とか実用性みたいなものをすべて備えていなくてはいけないということになる。スペックと言った場合、普通は馬力だとかゼロヨンが何秒だとかを指すんだけど、オープンのときに快適かとか風仕舞いなんかも立派なスペックであって、もし風が全然入ってこないことを数値で表せたら、それをスペックとして言ってもいいんじゃないかと思う。
荒井 911の場合、たとえ屋根が開いたとしてもその完成度は絶対にクーペと変わらないようにするという風に作っているんだと思う。
村上 911も2+2で開口部が大きいから走りや快適性がクーペとまったく同じというわけにはいかない。しかし、比較しないで最初からオープンに乗っていればまったく不利な面を感じないくらい完璧な仕上がりになっている。それは本当に驚くべきことだと思ったな。
塩澤 屋根は開いているんだけど、911は紛うことなきスポーツカーだったな。
荒井 両方とも物凄くパワーがあってとんでもなく速いというのは同じだけど、M8から911に乗り換えるとソリッド感が全然違う。
新井 M8はスポーツカーというよりもマッスル・カーですよね。もちろん山道でも溜飲が下がるくらいスポーティな走りをみせるのだけれど、911と比べると大きなパワーを存分に味わうのが似合ってます。
塩澤 有り余るパワーを湯水のごとく使って楽しむクルマ。
新井 パワー自体は911ターボ級ですから。
村上 M8カブリオレは正直言って運転も難しい。素直に動かすにはね。
荒井 重いからな。
村上 2トンあって、それでいてパワーがメチャクチャあり過ぎるくらいある。4輪駆動なのにホイール・スピンするんじゃないかってくらい力強いからね。だから、そういった意味でいうと、M8ではなく850iとか840iとかの方が8シリーズのカブリオレには合っている感じがする。
塩澤 でも、ドイツ人だから全部アリにしないと気が済まない。だからM8もカブリオレにしちゃった。
村上 本当は850iとかのカブリオレが広報車にあれば、そっちを借りたと思うし、我々が考えている特集の趣旨に近いクルマだったんじゃないかな。気分的にはゆったりとオープン・エアを楽しもうというには適している。それに比べるとM8はトゥ・マッチな気がしないでもなかったよね。
塩澤 M8はクーペだと600psオーバーという溜飲を下げるようなパワーをひたすら追求していくような使い方をしたくなる。たとえばサーキットを走るとかね。しかしカブリオレだと、速度の低い世界でも感じられる魅力がある。もちろん、いざとなったら625psの大パワーを堪能できるし。その幅の広さがクーペと大きく違うところかな。
村上 M3、M4のような本当にサーキットを攻めようというのとは違って、M8のクーペもカブリオレと同じように、本当は持てるパワーを全部使わずに走るといったような心に余裕を持っているというか、贅沢を知り尽くしている人が楽しむ種類のクルマなのかも知れないね。そのキャラクターがカブリオレだとよりはっきりするということかな。とにかく何でも有りじゃないと気が済まない乗り物かもしれないけど、それをただただひけらかすのではつまらないよね。そうじゃないココロの余裕がある人の乗り物なんだと思う。
塩澤 どっちも屋根が開くということだけで十分オシャレだよ。
新井 ただ、私にはちょっとオシャレ過ぎます。乗る方が負けないようにしないと……。
村上 とりわけMだからな。普通のオシャレじゃダメな気がする。
荒井 あと、これに乗ってどこへ行くかというのもある。リッツカールトンだったらいいけど……。
新井 ビジネスホテルというわけには行かない。
一同 (笑)
村上 Mじゃない8シリーズが普通のアートだとすると、M8カブリオレは抽象的な現代アートみたいな世界に入っているような感じがする。これはなかなかハードルが高い。その点、911は気楽でいいよね。何でも許してくれそうな気がする。
塩澤 911はM8と比べるとあんまりオシャレじゃないのかも。漂うものが違う。どうしてだろう。
荒井 それはやっぱり911だから。ポルシェ911というブランド力が強いんでしょ。
村上 本来的に言うと、M8カブリオレの方がずっと日常性が高いはずのクルマなのに、実際には、911カブリオレの方が毎日使えて何でもできる気がするのが不思議だよね。M8の方が時と場所を選ぶ。
塩澤 8シリーズという車格が特別なものを感じさせるんじゃないかな。メルセデスでいえばSクラスのカブリオレなわけで、元々、敷居は相当高い。そりゃ、日常使いのクルマではないよ。
新井 いろんな意味で愉しませてくれる、パーティみたいなクルマだと思います。
塩澤 しかもかなりハジけたパーティね(笑)。
村上 ただ、ちょっと鼻に付くぐらいこれみよがしなところが、あまりにもあり過ぎるのも否定できない。
荒井 過剰だよね。
村上 “パンパン”いう音とか唐突にパワーが出るところとか。もうちょっとしっとりとした感じにしてもいいんじゃないかなと思うよ。ある意味で、酸いも甘いも辛いも、すべてを噛み分けた人が乗るクルマなのかも知れない。すべてを悟りきったようなお年寄りのクルマ好きが乗っていると似合うのかもな。境地に達した人が。
塩澤 若いのが乗っていたら……。
村上 アンチャンが乗るクルマじゃないよな。911がスゴイのは若い人が乗ってもいいし、年配の人が乗ってもいいし、女の人が乗ってもいい。すべての人が様になるってことだよね。
塩澤 乗る人のスイート・スポットは911の方が広い。
村上 山口百恵じゃないけど、911カブリオレに女の人が乗っているとムチャクチャかっこいいもんね。
塩澤 M8の非日常感は911よりも突き抜けている。
新井 911はクーペではちょっとストイックなイメージだけれども、屋根開きになることでちょうどいい華やかさになりますよね。
村上 オープンカーというのは屋根を一度開けるだけで非日常の世界に誘ってくれるということを特集のタイトル・ページのリードにも書いたけれど、そういう乗り物としてはすべてを追求して一番完成度が高いのがドイツ車。だからこの2台に乗って感じるのはドイツ車の底力だよな。執念というか。とにかくちょっと半端じゃない。
新井 屋根が開くんだから走りも快適性もこんなもんでいいだろうという言い逃れはまったく感じません。
村上 完成度で言えば、911の方が高かったよね。ただ、独特な味がどれだけあるかということで言えばM8の方が濃い。
新井 両車では気持ちよさの次元と方向性が違いますよね。
荒井 好き嫌いははっきりするかもしれないけど。
村上 勝っても勝っても勝ち足りない人というのは世の中にいるから、M8じゃなければダメという人は必ずいるから。
新井 SクラスのAMGよりもさらに濃いですよね。
村上 911は「こう来るか」という範疇に収まっているけど、M8を見ると「こりゃ敵わないな」と思う。SクラスのカブリオレにもAMGがあるように、ドイツ人はここまでやらないと気が済まないんだよ。
荒井 これだけ過剰なものに乗ると元気になるよね。
塩澤 僕は何かを吸い取られそうな気がするな。
一同 (笑)
■BMW M8カブリオレ・コンペティション
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4870×1905×1355mm
ホイールベース 2825mm
トレッド(前/後) 1625/1630mm
車両重量(車検証記載値) 2030kg(前1070kg/後960kg)
エンジン形式 V型8気筒DOHC32V直噴ツインターボ
総排気量 4394cc
ボア×ストローク 89.0×88.3mm
最高出力 625ps/6000rpm
最大トルク 750Nm/1800-5860rpm
変速機 8段AT
サスペンション形式(前/後) ダブルウィッシュボーン式/マルチリンク式
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 275/35ZR20 102Y/285/35ZR20 104Y
車両価格(税込) 2553万円
■ポルシェ911カレラ4カブリオレ
駆動方式 リア縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4520×1850×1300mm
ホイールベース 2450mm
トレッド(前/後) 1591/1557mm
車両重量(車検証記載値) 1630kg(前630kg/後1000kg)
エンジン形式 水平対向6気筒DOHC24V直噴ツインターボ
総排気量 2981cc
ボア×ストローク 91.0×76.4mm
最高出力 385ps/6500rpm
最大トルク 450Nm/1950-5000rpm
変速機 デュアルクラッチ式8段自動MT
サスペンション形式(前/後) ストラット式/マルチリンク式
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 245/35ZR20 91Y/305/30ZR21 100Y
車両価格(税込) 1729万円
話す人=村上 政+塩澤則浩+荒井寿彦+新井一樹(以上ENGINE編集部、まとめ新井) 写真=神村 聖
(ENGINE2020年11月号)
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