京都有数の観光スポットが立ち並ぶ東山エリア。清水寺へと続く参道から一歩足を踏み入れると、そこに昭和の記憶を呼び覚ますような懐かしい”学び舎”が現れた。中央の大階段を囲むように、3棟がコの字型に配置されたこの建物は、昨年3月にオープンした「ザ・ホテル青龍 京都清水」。2010年度に閉校となった元清水小学校が、プリンスホテルが運営するラグジュアリーホテルとして蘇ったのである。
明治2年に下京第二十七番組小学校として開校した清水小学校は、昭和8年に現在の場所に移転、京都市営繕課により新築された。この時代には多くの木造校舎が鉄筋コンクリートに建て変えられたが、当時としてはモダンな清水小学校は大きな評判となり、地元民からも長く愛されてきた。
「京都では近年、古い建物を取り壊す代わりに、有効活用する動きが活性化しています。我々も今の時代に相応しい快適なホテルをつくると同時に、80年以上続く建物の歴史を受け継ぎ、未来へと継承していくことを目指しています。たとえば外壁のタイルの4割は新しいものに変えましたが、残りの6割はもともと使われていたタイルを洗浄して、元に戻したんですよ」(総支配人の広瀬康則さん)
もちろんタイルだけでなく、アーチ状の連窓、スパニッシュ瓦葺きの屋根、その屋根を下支えする木製の腕木など、外観意匠の多くが当時のまま残されている。建物の内部も同様で、階段や廊下といった共有部では、装飾を施した梁や腰板張りなどに小学校の名残を見ることができる。昭和の日本にタイムスリップしたかのような感覚を味わいながら、ホテル内を歩くだけでも楽しいが、たとえば階段の手摺に目を落としてみれば、そこには小学生がいたずらで掘った文字が見つかる……。そんな意外な発見があるのも、このホテルならではの魅力だ。
ちなみに客室はスイートからスタンダードキングまで48室あるが、どの部屋もベッドや浴室がゆったりとしていて過ごしやすい。法観寺八坂の塔を間近に眺めながら寛げるゲストラウンジや、かつては講堂の一部だった天井高のプライベートバスなど、宿泊者専用施設も充実している。また敷地内別棟にあるフレンチレストラン「ブノワ 京都」や、京都の街並みを一望できるホテル屋上のバー「K36 The Bar & Rooftop」も、ここでしか体験することのできない特別な空間だ。
「滞在中はあえてどこにも出かけず、ホテル内で一日を過ごされる方もいらっしゃいます。お客様の年齢層も50代、60代と、落ち着いた世代の方が多いですね」と、先の広瀬総支配人が言う。「清水小学校の卒業生のみなさんもよくホテルに遊びにきてくれては、当時の話を聞かせてくれるんですよ。私たちが継承していくのは建物だけではありません。地域のみなさんの心に残る思い出も、あわせて後世に引き継いでくのが我々の役割だと思っています」
■ザ・ホテル青龍 京都清水
京都府京都市東山区清水二丁目-204-2
宿泊予約・問い合わせ先 TEL.075-532-1111
www.seiryukiyomizu.com
文=永野正雄(ENGINE編集部)
(ENGINEWEBオリジナル)
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