2021.08.13

LIFESTYLE

アート界の異端児、バンクシーの作品はなぜ世間を騒がせるのか? 大規模展覧会が8月より全国を巡回

アート界の異端児、バンクシーの展覧会が東京で始まる。神出鬼没の彼の作品はなぜ世間を大きく騒がせるのか?

SNSが発達して誰もが気軽に発信できる世の中になった。noteにTwitter、InstagramにTikTokなどSNSのサービスも多種多様だから、文章が苦手な人でも映像や写真、イラストなど、得意分野で自分を表現できる。この頃はSNSで作品を見せるアーティストも増えてきた。

そんな状況でありながら、一般的には使われていない、きわめて特殊でアナログなメディアを中心に作品を発表するアーティストがいる。その名はバンクシー。アナログなメディアとは、世界中どこにでもある原始的な平面、「壁」だ。

害獣として忌み嫌われているドブネズミ(ラット)は、バンクシーが好んで描くモチーフ。アメリカ西海岸でよく見かけるギャングスタ・ファッションのネズミは、ステンシルと呼ばれる、あらかじめ絵の形に切り抜かれた型紙をベースにスプレーで描かれたもの。バンクシー《ギャングスタ・ラット》Gangsta Rat 2004年 個人蔵

バンクシーはイギリスに活動拠点を置く男性であること以外は、ほとんどが謎に包まれているアーティスト。公共の壁や塀、橋などにスプレーやペンで文字やイラストを描く、いわゆる“グラフィティ”で活動する彼は、世界各国に突然現れ、皮肉や風刺に富んだ作品を描き、そして去っていく。そのため、彼の作品は落書きとみなされ、瞬時に消されてしまうこともある。日本でバンクシー作とされる作品が発見されたり、コロナ禍で逼迫するイギリスの病院に作品を寄贈したり、オークションの出品作品が、突如、内蔵されていたシュレッダーで細断されてしまったりと、常にニュースになってもいる。それらの多くは、時代に逆行したアナログな手法を使っているのにもかかわらず、だ。彼の言動がすぐにニュースになるのは、彼そのものが、拡散しやすい皮肉や風刺の固まりだからだろうか。

2002年にロンドンの路上で描かれて以降、世界各地で様々なバージョンで描かれているバンクシーの代表作。2018年、オークション「サザビーズ」で落札された直後に、額縁に仕込まれたシュレッダーが作動し、細切れにされてしまった作品もこの絵がモチーフ。バンクシー《風船と少女》 Girlwith Balloon(Diptych)2006年 個人蔵

もちろんバンクシーだってwebサイトやInstagramは活用している。けれど、基本的に発表の場はいつもどこかの壁。作品解説はせず、見る人に解釈を委ねる。SNSの饒舌な世界に慣れた私たちには、それが非常に新鮮に映る。彼が語らないことで、私たちは作品を肴に勝手に物語を作り、深読みしていく。きっとそれが彼の術なのだと思いながらも……。

8月より「バンクシーって誰?展」が東京・天王洲を皮切りに全国を巡回する。また昨年、横浜で開催された「バンクシー展 天才か反逆者か」も7月から福岡で始まる。現代美術のアーティストの展覧会が東京だけでなく全国各地で、しかも同時に複数行われるのはとても珍しいことだ。神出鬼没のバンクシー、彼のアナログな作品群、そして皮肉や風刺をこの機会に楽しんでみようじゃないか。

チンパンジーに乗っ取られた議会の様子を描いた作品で、民主主義のモデルとされたイギリス議会の凋落を皮肉を交えて描いたとされている。本展出品作は、2009年にブリストルで開催された企画展「Banksy vs Bristol Museum」で初公開された横幅約4メートルに及ぶ油彩画のポスター版。バンクシー《モンキー・パーラメント》Monkey Parliament2009年 個人蔵

パレスチナのベツレヘム郊外で描かれたバンクシーの作家としての思想や活動家としての姿勢を象徴する一作。圧倒的な武力を誇るイスラエル軍に対して、投石やゴムパチンコで抗議したパレスチナ住民たちの運動をモチーフとしたもの。バンクシーは若者に石の代わりに花束をもたせた。バンクシー《ラヴ・イズ・イン・ジ・エア》Love Is In The Air 2006年 個人蔵

「バンクシーって誰?展」は2021年8月21日~12月5日まで寺田倉庫 G1ビル(東京都品川区東品川2-6-4)で開催。その後、名古屋、大阪、郡山、高岡(富山県)、福岡に巡回予定。

文=浦島茂世(美術ライター)

(ENGINE2021年8月号)

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