2021.09.12

LIFESTYLE

メルセデスのSUVに乗るトレーナーの家 窓が見えないのに室内は明るい!?【ENGINE・ハウス】



家作りでコストを下げる一つの方法は、高価な素材を使わないこと。道路に近い位置に窓を設けた場合、普通のサッシュの何倍もする高額な防火タイプを使用する義務があるが、これだと予算が圧迫されてしまう。それを避けるため、生活道路から距離をとった段々の形の家にすることに。道路に面した北側には、窓を設けなかった。

家と生活道路の間に生まれた空間は、半透明の素材で囲って半屋外のスペースとした。ここはガレージやバイク・自転車置き場であり、通路であり、植物が植えられた庭のような場所だ。季節の良い時期は、椅子を置いて本を読んだりビールを飲んだりと、寛ぐこともできる。一方、家本体には安価なサッシュで大きな窓を設け、屋内に自然光を取り込んだ。しかも半屋外空間のお陰で、生活道路からは家の内部を窺うことはできない。これがコスト削減に大きく効いたうえ、引網邸の大きな個性にもなった。

カフェのようなリビング・ダイニング。奥様の後ろのシェルフはコストの関係で扉を付けなかったが、お洒落な雑貨が飾られ魅力的な空間になった。段々になった家の構造は、屋内にも使いやすいスペースを生み出している。吹き抜け空間にL字型の天窓を採用したことで、1階だけでなく2階の奥まで光が届く。
コストカットはその他多くの場所に及んでいる。例えばキッチン奥のシェルフは、お金がかかるから扉を付けないことに。希望したデザイン性の高いステンレスのキッチンは、建築費と別予算で引網さんたちが購入した。雨樋も、西側でなく長さが短くなる南端に設置。屋根は法律で定める最も緩やかな勾配で、北から南へ向けて15cmだけ傾け、雨水を樋に流している。

吹き抜けにあるL字型の天窓

こうした積み重ねで、引網邸は無事に完成した。1階はリビング・ダイニングと施術室。2階は寝室と水回りの間取りである。1階のリビング・ダイニングがことさら明るいのは、吹き抜けにあるL字型の天窓のお陰。この形だと、光がより奥まで届くのだ。そして扉を付けずオープンとなったキッチン奥のシェルフには、奥様が旅先で集めた雑貨が並んでいる。こうしてリビング・ダイニングは、お洒落なカフェのような居心地の良い雰囲気に。経営する治療院のスタッフを招くことも考えた、ちょっと広めの空間だ。

半屋外の空間には、作庭家の手が入り素敵な植栽が。その一角に、将来また乗るであろうバイク専用置き場が設けてある。駐車スペースの横には、サーフボードと、ウエットスーツ用の収納、そしてボードを洗うシャワーが。施主からの依頼ではなく、サーフィンを趣味とする建築家のアイデアだ。

念願のマイホームに暮らし始めて一年。奥様は、日々植物の手入れをしていることから、「以前より季節の移ろいを感じるようになった」と話す。そして引網さんは……「将来娘が大きくなったら、またバイクに乗りたいものです」と。そう、限られた敷地内にバイク置き場を設けたのは、その日のためなのだ。この家でこの町で、両親の愛情をたっぷり受けて育つお嬢さんは、本当に幸せだなと思った。




建築家:綱川大介 1977年東京生まれ。一時期日活の美術部門に籍を置いたが、建築家を目指し工学院大学専門学校を卒業後、2010年に加瀬谷章紀氏(1974年・北海道生まれ、東京理科大大学院修了)と共同でI.R.A(国際ローヤル建築設計)を設立。エッジの利いた住宅を中心に、集合住宅、商業施設などを手掛ける。二人ともアウトドア・ライフが趣味で、綱川氏の愛車はジープ。長く乗り続けるつもりでいる。加瀬谷氏の愛車はVWトゥーラン。

文=ジョー スズキ 写真=繁田 諭

(ENGINE2021年9・10月号)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

RELATED

PICK UP