2022.01.31

LIFESTYLE

2022年グラミー賞で注目! 今、聴くべきは心揺さぶる3人の女性シンガーたち

最優秀新人賞など2部門にノミネートされたアーロ・パークス

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今年で64回目を迎える音楽の祭典、グラミー賞。音楽ライターの内本順一氏が、ノミネートされた多彩な顔ぶれの中から、類まれなる表現力を備えた3人の女性シンガーを紹介する。

H.E.R.と名乗る理由

オミクロン株の感染拡大を受け延期となっていた第64回グラミー賞の授賞式が、4月3日(現地時間)に行なわれる。最多ノミネートは映画『ソウルフル・ワールド』の音楽を担当したジョン・バティステで、計11部門。彼がいくつ賞を獲るかが話題だが、今回ここでは知性と稀なる表現力を備えた3人の女性シンガー・ソングライターに注目したい。

まず、ジョン・バティステに続く計8部門にノミネートされた一人が、H.E.R.。フィリピン人の母親とアフリカ系アメリカ人の父親の間に米カリフォルニア州で生まれた彼女が、匿名性を強調してH.E.R.と名乗るのは、「音楽以外のことで判断されたくない」「まず音楽と歌詞を聴いて共感してほしい」という思いからだ。前2作は複数のEPを纏めたコンピレーションだったが、今回最優秀アルバム賞などにノミネートされた『バック・オブ・マイ・マインド』は彼女自身がデビュー作と位置付けるもの。全21曲の音楽性はジャンルレスで、「数年間、心の奥底にあった思いの全てを表現した」と言うだけあり、アルバムとしての聴き応えがある。痛みや不安を綴った曲が多いが、人種差別主義者との会話の成り立たなさを嘆く曲など、社会に対する強力なメッセージも放たれている。





プリンスも認めたスノー・アレグラ

プリンスを敬愛し、パフォーマンスでもプリンスのようにエモーショナルなギターソロを弾くH.E.R.だが、最優秀R&Bアルバム賞などに選ばれているスノー・アレグラは憧れのプリンス本人から連絡がきて「一緒にアルバムを作りたい」と言われたシンガーだ。イランにルーツを持つスウェーデン人で、神秘性と柔らかさを持つ歌声に惹きつけられる。ノミネートされた『TEMPORARY HIGHS IN THE VIOLET SKIES』はシャーデーのように静かなる情熱を感じさせる曲とヒップホップ味のある曲との配合がいい塩梅で、夜にも朝にも聴きたくなる。





アーロ・パークスの可憐な歌声

最優秀新人賞など2部門にノミネートされて注目度が高まったのが、ナイジェリアとカナダとフランスの血を引き、ロンドン南西部で育った21歳のアーロ・パークスだ。デビュー作『コラプスド・イン・サンビームズ』にはアコースティックな曲とビートの効いた曲があるが、いずれも小鳥のさえずりのような可憐な声で歌われ、親密さを感じずにいられない。

多様なルーツを持った3人に共通するのは、痛みや哀しみ、喪失感を歌詞にしながら、歌唱には聴く者を癒す感覚があること。楽曲自体に深い共感性があること。ドリーミーな感覚とリアルさが共存していること。歌声と歌詞の両方に個性と知性が滲む3人に何らかの賞が渡ることを期待している。





文=内本順一(音楽ライター)

(ENGINE2022年2・3月号)

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