2023.03.24

LIFESTYLE

ブレンダン・フレイザー VS. ニコラス・ケイジ どん底から這い上がったスター俳優2人の奇跡のカムバック

かつてはアクション・ヒーローを演じていた……

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かつてハリウッドを代表する人気スターとして活躍しながらもキャリアが低迷していた2人の男優。だが不屈の精神で華々しいカムバックを果たした彼らに再度、スポットライトが当たっている。

長い低迷期を経て……

自宅のソファに座る体重272kgの男。歩行器なしでは移動もままならないその巨体を見て、演じているのがブレンダン・フレイザーと気づく人はいないだろう。1990年代から『ハムナプトラ』シリーズなどのコミカルなヒーロー役で人気を博した彼はその後、業界内でのトラブルや度重なる怪我、私生活での不幸などにより鬱状態に。だがそんな長い低迷期を経て出演した本作『ザ・ホエール』で先頃、アカデミー賞主演男優賞を受賞する、驚きのカムバックを果たしたのだ。



フレイザーの役は大学のオンライン講座で生計を立てている教師のチャーリー。同性の恋人を失くしたショックで過食を繰り返し、極度の肥満により命が危うい状態になっている。そんな彼の元に長らく音信不通だった17歳の娘が訪ねてくる。かつて家庭を捨て罪の意識に苛まれていたチャーリーは、娘との関係を修復しようと決意する。

オフ・ブロードウェイで上演された舞台劇の映画化で、物語はほぼ室内だけで進行。登場人物も6人しかいない。ユーモアやスリル、謎解きに満ちた、まさに優れた戯曲を見るかのごとき作品だ。

俳優たちのアンサンブルも見事だが、やはり本作の見どころはフレイザー。毎回4時間のメーキャップと、45kgのファット・スーツを着てこの難役に挑んだが、その姿以上に、魂の叫びが聞こえてくるかのような渾身の芝居で観る者を圧倒する。



借金返済のために

出演作を選ばない俳優……。数年前までのニコラス・ケイジのイメージはこんなところだろう。1995年の『リービング・ラスベガス』でオスカーに輝き、その後は『ザ・ロック』、『フェイス・オフ』といった大作映画の成功でドル箱スターに。だが次第に作品に恵まれなくなり、浪費癖もたたって巨額の借金を抱えてしまう。その借金を返済するために、多い時は年間4本ものB級映画に出演していたのだ(『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』、『カラー・アウト・オブ・スペース』など、カルト映画好みの楽しい作品も多いのだが……)。

そんな地道な努力のおかげでついに借金を返済。日本で昨年公開された『PIG/ピッグ』での芝居が絶賛されたのに続き本作『マッシブ・タレント』が世界67カ国でトップ10入りのヒットを記録したのだ。

本作でケイジが演じるのはニコラス・ケイジ。つまり本人である。落ち目で借金まみれの俳優が、国際的な犯罪組織の陰謀に巻き込まれるアクション・コメディ、と聞くとこれまでのB級映画とさほど変わりなさそうに思われるが、これが見事なまでに面白い。本人の過去の作品に敬意を表しつつ、全編、映画愛が迸る快作に仕上がっているのだ。遠回りした末に、さらに魅力的な俳優になって一線復帰を果たしたニコラス・ケイジ。そのダイ・ハードな役者根性に拍手を送りたい。



『ザ・ホエール』
今年度のアカデミー賞で主演男優賞に輝いたブレンダン・フレイザーは声を震わせながら壇上でスピーチをし、会場を沸かせた。監督は緊迫感のある人間ドラマに定評のある『レクイエム・フォー・ドリーム』、『ブラック・スワン』の鬼才、ダーレン・アロノフスキー。サミュエル・D・ハンターによる同名舞台をたまたま見て、即座に映画化権獲得に動いたという。ちなみに題名の『ザ・ホエール』は劇中で大きな意味を持つハーマン・メルヴィルの小説『白鯨』に由来する。117分。4月7日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー。配給:キノフィルムズ (C)2022 Palouse Rights LLC. All Rights Reserved.

『マッシブ・タレント』
最初は本人を演じることにまったく乗り気ではなかったというニコラス・ケイジ。だが監督の熱意と脚本の面白さに心動かされ、出演を決めたという。落ち目の俳優が100万ドル欲しさに、彼の大ファンであるスペインの大富豪の誕生日に出席するというリアルな物語が展開するが、中年男2人のハートウォーミングなバディ・ムービーとしても出色の出来栄えだ。共演は『ゲーム・オブ・スローンズ』や『マンダロリアン』などのTVシリーズでも大人気のペドロ・パスカル。監督は本作が長編2作目となるトム・ゴーミカン。107分。全国公開中。配給:フラッグ(C)2022 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved. 

文=永野正雄(ENGINE編集部) 

(ENGINE2023年5月号)

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