ナポリ王国がブルボン朝の支配下にあった19世紀中頃から、ルイジ ボレッリが創業したナポリ郊外サン セバスティアーノ アル ヴェズーヴィオには、多くの貴族階級が移り住み始めた。彼らが同町の仕立て職人のパトロンとなったことで、サンセバスティアーノと隣町のサン ジョルジオ ア クレマーノには多くの仕立て職人が生まれ、ふたつの町はやがてナポリにおけるシャツ作りの聖地へと発展していった。
そういった歴史の中で、1904年、サン セバスティアーノの自宅で近隣の人たちのためにシャツ作りを始めたひとりの女性がいた。彼女こそが、ルイジ ボレッリの母、アンナである。そのシャツは大きな評判を呼び、やがて自分たちの工房を構えるまでになった。息子ルイジの代になって、1957年、ルイジ ボレッリの歴史がスタートした。
ルイジ ボレッリは、シャツ作りの根幹であるカッティングの卓越した技術、それを美しく立体的に仕立てるサン セバスティアーノの縫い子の高い技術を武器に、至高のシャツを世に送り出した。世界トップのシャツブランドへと駆け上がるのに、そう多くの時間を必要としなかった。90年代初めのクラシコイタリア創成期には“世界最高のシャツ”という称号をほしいままにした。今日、ブランドはさらなる発展を遂げ、そのポジションをさらに強固なものにしている。
今も昔も彼らのシャツ作りにおける最大の武器は、人間の体に美しく沿う立体的な仕立てにある。職人の手縫いを8工程に取り入れながら、柔らかさと精緻な仕立てが絶妙に溶け合った、気品あふれるシャツを生み出している。最高品質の生地使いも、ルイジ ボレッリのシャツの着心地よさを生み出す重要なファクターだ。ちなみにこちらの生地は、トーマス メイソン社のロイヤルツイル。高番手の糸を使用しているため、上品な光沢とともにシルクのような滑らかさを備えている。ハリ感にも優れた生地は耐久性が高く実用性を備え、着用時に凜とした表情を生みだしてくれる。
仕立ての面で注目したいのは、着心地を大きく左右する袖付けの技術だ。袖は前向きで付けられておりアームホールの刳りが高い位置に設定されているため、腕の可動域が広く、不自然なシワを生むなく胸回りをすっきり見せてくれる。ボディには程よいゆとりをもたせながらも背中のダーツによってウエストが絞られており、いい塩梅の色気も備えている。
ルイジ ボレッリはシャツとしての総合力が極めて高い。立体的な仕立てによるルイジ ボレッリのシャツに初めて袖を通した方は、そのあまりの着心地のよさ、そして職人の仕事の美しさに驚かされるだろう。これからの季節、シャツ一枚になったとしてもルイジ ボレッリのシャツは、美しい存在感を放ってくれる。ルイジ ボレッリが世界的なブランドへと成長を遂げた背景には、しっかりとした理由があるのだ。
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文=藤田雄宏 写真=LUIGI BORRELLI TOKYO
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