中佐 意外な話で言えば、所有車の中では、レースで強く評判のいいM3より、同じ直4でも75のツインスパークの方が断然面白いです。
廣部 その意味ではラテンの車は、運転していて抜群ですね。他のクルマと同じスピードでも、すごくスポーティな感じがします。
鹿嶌 ラテンのクルマの魅力はそれだけではないでしょう。僕は、ペットみたいな魅力を感じています。ちょっと育てているところがある。最初は機械的に欠陥だらけで調子が悪いのが、直してだんだんと完成に近づいていく。特にパンダはそうです。朝、「あ、エンジン掛かった。いい子だねぇ」と、声をかけたりしますよ。
一同 分かる、分かる(笑)。
鹿嶌 あと、パンダ同士は、すれ違うと、必ず手を振ってもらえます。高速道路で出会うと後ろについてくることもあるので、次のSAに入って、オーナーと一緒にお喋りしたり。
塩澤 それは、フィアットの特殊なところかもしれまません。実は僕はプライベートでムルティプラに乗ってるんですが、3人掛けシートの宇宙船みたいな外観で。それが同じクルマ同士ですれ違うと、まずお互いがびっくりした顔をして、その後必ず全員が笑うんです。
スズキ これまたラテンの車ならではですね。それであれば、ラテンの車に乗っているコアなお客様から、建築依頼も多いのでは。
廣部 スパイダーを持っていなかったら、独立して2年で事務所を畳んでいたかもしれません。毎週末箱根に走りに行くうちに知り合う仲間が増え、「そういえばスパイダー乗りの廣部さんは建築が仕事だよね。住宅とか請けてくれるの」と、仕事が来たお陰で、駆け出しの時期を乗り切れました。当時は全く実績のない建築家だったのに、クルマで仲良くなったというだけで仕事をくれて。その恩があるので、スパイダーは手放せなくなりました。
鹿嶌 マセラティの場合は、仲間から依頼がありますね。「マイカー&マイハウス」の建て主さんも、ツーリングに誘われて仲良くなって。イベントに参加している方と偶然同郷で、お願いされたこともあります。でもこうした事例は、ほんの一部でしかありませんね。
コンパクトだが直進安定性に優れ、見かけよりも速い。フランスのオートルートを130㎞/hで平気で走れる設計。乗り心地も柔らかく、シートが本当に良いので長距離移動も苦にならない。スパイダーでの長旅は覚悟がいるが、C3なら気軽に遠出をしようという気持ちに。それだけで人生が変わった気がすると廣部さん。気に入っているのはデザイン。幾つかある個性的な色の組み合わせから、迷わずこれを選んだ。
子供の頃から、フェラーリ・ディーノ246やマツダ・コスモスポーツなど、流線形のクルマが好きで、アルファ・ロメオ・スパイダーに。入手したのは、ワンオーナーの右ハンドル車。オドメーターが壊れていたので、走行距離は不明。最初はクラッチの重さや不慣れなMTということもありスムーズに運転できず、200m走ったところで返却しようと思ったほど。その後、毎週末箱根まで練習のため走りに行き、腕を上げる。
アルファ147は、ボディに赤のラインが入った、少々やんちゃなモデル。C3を含めた今の2台のクルマに長く乗っていくつもりだが、ガソリン・エンジンが無くなっても、EV化ができるのであればこのスパイダーに乗り続けたい。オープンカーに長く乗っているので、別荘などを建てる際、建築家として「自然の中に身を投げ出すのは気持ちいい」と、自信を持って言えるのは大きいとか。
廣部さんが建築家として広く知られるようになったのは、一連の海辺の別荘だが、これは伊豆高原の別荘。樹木が鬱蒼と茂る傾斜地に生える、特別な存在感のあるヒメシャラの木を中心に据え、それをとり囲むように建物を配置。それぞれの部屋は、包まれるようなよいサイズ感の、眺めのよい空間となっている。屋根の構造は、かなりチャレンジング。
廣部剛司建築研究所 http://www.hirobe.net
スズキ 皆さん建築家が乗っているクルマは、手がけている建築にも影響を与えているように思います。「マイカー&マイハウス」で取材依頼をする際、全く面識のない建築家に連絡することが多いのですが、僕は駒田さんのホームページでHATの写真を見て、どこかフランス的なものを感じて連絡をしました。
駒田 この家は国産車で残念でした。
スズキ でも駒田さんがプジョーを選ぶ理由である、〝普通だけどお洒落〟な感じがしますよね。中佐さんのウェブサイトには、作例にアルファ75を車庫に入れて撮影している家があります。他の作品も拝見して、75は、建築家のクルマに違いない。しかもかなりのクルマ好きと思い連絡したんです。実際その通りでした。
塩澤 僕らは、そうした微妙な感覚で家を選んでいるんです。ガレージの壁一面に工具が並ぶ家ではなくて、家とクルマに独自のセンスを感じさせるような家を。
廣部 建築家としては、大歓迎です。
駒田 ところで今の時代、昔のように、ラテンのクルマに明確な個性は残っているのでしょうか。
塩澤 今はあると思います。2000 年くらいから、自動車業界では「ワールドカー」という言葉が流行りました。それまでは、製造国別にローカルな味があり、まずは自国市場で売れなければいけないという考えでした。その上で最大市場の米国市場でどうやって売るかという問題があったんですが、ラテンの車はことごとくアメリカで失敗する。一方、ドイツ車は大成功して、それがやがて世界基準になった。で、その後は皆ドイツ車のようなクルマをつくるようになるんですね。
スズキ 世界規模での自動車メーカーの再編もありましたね。
塩澤 そうです。世界規模で効率とコストパフォーマンスを重視したため、国ごとの個性が失われる傾向にあった。エンジンではよく「メーカーに哲学はあるのか」というんですが、昔はオリジナリティを重視するメーカーが多かった。ところが、最近それが戻ってきている。例えば、アルファ・ロメオはGMとの協業でドイツ車みたいな159をつくって失敗したんですが、今はジュリアやステルビオで復活した。シトロエンなんかもDSブランドをつくって積極的に実験的で革新的なブランドに戻ろうとしている。
駒田 クルマのようなグローバルな業界で、一巡してローカルな世界に戻ってきたのが面白いですね。
廣部 去年C3を買った時、かつてのマニアな感じが戻ってきたと思い、デザインで選びました。シトロエンは、デザインの可能性を相当に信じていると思います。素材は高いものを使っていないけれど、決してチープでない。建築の世界でもそういうデザイン手法があります。
駒田 一方、建築で言えば、ドイツは100年前から標準的なものを作るのを至上命題としてきた。そう考えるとなんだか面白いですね。
塩澤 今業界は、哲学のあるクルマ作りと、カーシェアの2つの極が生まれています。あと、企業が小さな規模だから上手くいく話もあります。ボルボがそのいい例で、生産効率と品質と個性がうまくバランスしているのは、ボルボが生産規模の小さなメーカーだからなんですね。
中佐 大量生産と一品生産の件は、建築業界でも言われてきました。住宅メーカーとアトリエ系の関係と同じですね。
駒田 僕らは、同じものを作りたくないですからね。そもそも土地や予算などの条件が違うからできない。設計効率を上げるという発想も、アトリエ系の事務所にはありません。
鹿嶌 その中で、いかにオリジナリティを出していくかが、我々のような建築事務所の存在意義でしょう。
スズキ 現代のラテンのクルマと、皆さんのような建築事務所には、共通する哲学が多いようですね。
中佐 こうした話を聞いていると、今頑張っている新しいラテンのクルマを応援したくなってきました。カーシェアを止めて、普段の仕事で使う小ぶりな新車と、アルファSZの2台持ちを目指します。
一同 そう来なくっちゃ!(終わり)
アルファ・ロメオ75 は、フィアットに買収される前の最後の量産車で、メカ、デザイン、乗り味が独特。特にエンジンのレスポンスが気持ち良い。2台の75を乗り継いでおり、最初は直4のツインスパーク。4年乗った後に、シングルカムのV6で、一番パワフルなQVの中古車をみつけ入手。真っ黒のフルエアロに、爆音ステンレスマフラーなど走り屋仕様に改造されていたが受け入れられず、最初の75のような白いボディに仕上げることに。
写真に納まっているアルファ75は、最初のツインスパークの方。赤いミニは、お施主さんの友達のクルマ。
ドライブスルーのあるお宅の家族は、かつて中佐さんの近所に住んでいて、M3が停まっているのを毎日のように眺めていたほどのクルマ好き。共通の友人の紹介があって、設計を依頼された。カングーは奥様のお気に入りで長年乗っているが、ご主人は頻繁にクルマを買い替えるタイプ。最近は、そうしたクルマの相談にも応じる間柄に。
上の写真の中佐さんの自邸は、かつてENGINE本誌で紹介されたことも。中佐さんに設計を依頼する方には、ラテンの車だけでなく、80年代の古いクルマに乗っている方も多いとか。中佐さんの放つ、独特のクルマ好きのオーラを読み取っているのかもしれない。因みに建築も、一度見たら忘れない強い個性が。
ナフ・アーキテクト&デザイン http://www.naf-aad.com/
話す人=鹿嶌信哉+駒田剛司+廣部剛司+中佐昭夫+ジョー スズキ(まとめも)+塩澤則浩(ENGINE編集部) 写真=柏田芳敬
(ENGINE2019年10月号)
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