外山文治監督による映画『ソワレ』がまもなく公開される。映画初プロデュースの小泉今日子が見込んだという監督の手腕、そして主演の2人の魅力に迫る。
今、日本映画で観るべきは、メジャー系の商業映画ではなく、低予算ながらも、作り手の個性やセンスが際立つ、40歳前後の映像作家たちの作品である。『ハッピーアワー』の濱口竜介監督や、『淵に立つ』の深田晃司監督などはその代表格だが、さらに注目したいのが1980年生まれの外山文治監督。7年ぶりにつくった長編映画『ソワレ』が、今年屈指の日本映画に仕上がっている。
本作は外山監督が、小泉今日子、豊原功補と共に立ち上げた「新世界合同会社」の初プロデュース作品である。外山監督が2010年に作った短編映画『此の岸のこと』をDVDで観た小泉と豊原が、その才能に深く惚れ込んだのが、映画製作会社設立のきっかけになったという。
映画『ソワレ』が描くのは、和歌山県を舞台にした若い男女の逃避行である。役者を目指しながらも、オレオレ詐欺に加担して日銭を稼ぐ主人公の翔太。劇団の仲間たちと慰問のために高齢者施設を訪れた彼は、そこで働くタカラと知り合う。だが、たまたま彼女のアパートを訪れた翔太は、父親から壮絶な暴行を受けている現場に遭遇。衝動的に父親を刺してしまったタカラの手をつかみ、あてどのない旅へと走り出す……。
本作で鮮烈な印象を残すのが、主人公を演じる村上虹郎と芋生悠だ。とりわけ100人を超えるオーディションで選ばれた芋生が凄い。今にも崩れ落ちそうな儚さと、それでも立ち続けようとする逞しさをあわせ持った存在感が圧倒的で、終始、目が離せなくなる。無軌道でありながら脆さを感じさせる村上とのケミストリーも素晴らしく、ソウルメイトという言葉がぴったりな2人の危うい逃避行を、観客は我が事のように見守ることになる。
途中、正視するのがツライほどの場面も登場するが、ファンタジー的な要素も取り入れながら、見事なラブストーリーに仕上げたのは監督の手腕だろう。心中を決意した老夫婦の姿を描いた『此の岸のこと』には一言も台詞がなかったが、本作でも主人公たちの心情を過剰に言葉で語らせることはしない。饒舌になり過ぎない、詩情あふれる映像が、2人が感じる喜怒哀楽を自然と浮かび上がらせていくのだ。
キャスティングありきの台本を否定し、分かりやすささえも優先しない演出は、今の日本映画に対する挑戦状のようでもある。だが野心的でありながら、作品全体を包み込む監督の目線は、『此の岸のこと』と同様に、慈愛に満ちていて優しい。この優しさこそが、外山作品の一番の魅力なのだろう。
『ソワレ』は8月28日(金)よりテアトル新宿、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸ほか全国公開。
配給:東京テアトル。111分。
©2020ソワレフィルムパートナーズ.
文=永野正雄(ENGINE編集部)
(ENGINEWEBオリジナル)
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