日本発の筆記具、ガラスペンが静かなブームだ。芸術性と実用性を併せ持つ日常使いの逸品として美しい輝きを放つマスターピースを紹介。
瑠璃、玻璃、ビードロ、ギヤマン、ガラス。最初のふたつは漢語経由のサンスクリット語、次のふたつがポルトガル語、現在も使われている最後の呼称はオランダ語に由来する。各時代に交流のあった国の言葉から派生したことからもわかるように、日本でガラスは舶来品であり、常に海外の影響を受けてきた。一方で江戸切子のように日本独自の美意識で発展したものがある。ガラスペンもそのひとつ。明治時代に佐々木定次郎という風鈴職人が筆の竹軸にガラス製のペン先をつけたのが始まりだった。欧米発のつけペン同様、インクに先端をひたす仕組みだが、刻まれた溝の毛細管現象によってインクの持ちが格段にいいことから愛用され、逆に海外にも広まっていった。だが、より簡易で壊れにくいボールペンの普及により、筆記具としては過去のものとなった。
復活の兆しは平成になってから。軸まで一体の「ひねりガラスペン」が開発され、ペン自体がアーティスティックな作品として注目されるようになる。多くのガラスデザイナーが手掛け、30年の間に形と色に磨きをかけてきた。
そして令和。キーボードのタイピングやスマートフォンのタップが当たり前の若い層を中心に、旬なアイテムとして脚光を浴びている。左に紹介するのが特に人気のふたつのブランド。「川西硝子」はガラスの内側へ小宇宙のように模様を閉じ込めた繊細な意匠が印象的だ。対して「ガラス工房まつぼっくり」は、ガラスペン本来の筆記具としての特性をモダンにアップデートさせ、シンプルな使いやすさを追求している。それぞれ贅沢な様式美と洗練の機能美という両極の象徴をなす。数千円から数万円という価格帯ながら、品薄となるモデルも多い。
こうした人気の理由として、ガラスペンがハンドメイドという特性が大きいだろう。デザイナーが自ら火と工具を操り、ひとつひとつ丁寧に仕上げていく。一点物のアート作品と考えれば、十二分にリーズナブルだ。
ペンのデザイン、掌の感触と指の動き、インクの匂い、紙を擦る音。書くことは五感に響く。そして紙に記された文字は容易には消せない。デジタルにはない一期一会の緊張感こそ、手作りのガラスペンならではの醍醐味。ディスプレイを閉じて、そんなプレミアムな時間を体験してみる価値はある。
文=酒向充英(KATANA) 写真=杉山節夫
(ENGINE2021年1月号)
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