2025.04.11

CARS

世のエコ志向を場外に吹っ飛ばすくらいゴージャス! 自動車評論家の清水草一が試乗した5台の注目輸入車とは? 

大磯プリンスホテルの大駐車場で行われた2025年版「エンジン・ガイシャ大試乗会」で清水さんが試乗した5台の外車とは?

全ての画像を見る
今年も乗りまくりました2025年版「エンジン・ガイシャ大試乗会」。各メーカーがこの上半期にイチオシする総勢33台の輸入車に33人のモータージャーナリストが試乗! 

清水草一さんが乗ったのは、マセラティ・グランカブリオ・トロフェオ、DS 3オペラ、フェラーリ・プロサングエ、ベントレー・ベンテイガEWBマリナー、アウディSQ8スポーツバックeトロンの5台だ! 



マセラティ・グランカブリオ・トロフェオ「
フェラーリのNAエンジンを髣髴」

マセラティ。作家・北方謙三先生が「没落貴族」と評したこのラグジュアリー・スポーツ・ブランドは、今世紀に入り大復活を遂げたが、現在は再び経営的苦境にあるらしく、下取り相場も苦戦している。

しかしそんな周辺状況は、真のクルマ好きには関係ない。純粋にクルマだけを見れば、グランカブリオはすさまじく魅力的である。

マセラティ・グランカブリオ・トロフェオ

まずエクステリアとインテリアがすばらしい。これぞラグジュアリーの極み。これ以上魅力的なルックスを持つ4座オープンはないのではないか。

エンジンはピュアICEの3リットルV6ターボ。軽く流せばあくまでジェントルだが、高回転域の回転フィールやサウンドは、フェラーリの自然吸気エンジンを髣髴とさせる。

マセラティ・グランカブリオ・トロフェオ

全長5m近い巨体ゆえに、550馬力をもってしても、持て余すほどはパワフルすぎず、ギリギリ手の内に収められるのもいい。この内外装で、内燃エンジンの快楽を満喫することができるのだから、まさに全身ラグジュアリー。

DS 3オペラ「心奪われるキラキラ感」

私はDSブランドが好きだ。なぜならDSは、キラキラしているからだ。宝飾品とは一切無縁の人生を送っているが、なぜかDSの内外装のキラキラ感には心を奪われる。

DS 3オペラ

多くの女性はダイヤの指輪を見ると元気になるという。私はダイヤモンドにはなんの興味もないが、DS3の内外装に施されたダイヤモンド・カットにだけは惹かれる。「ひょっとして、これが乙女心というヤツか?」と思うほどウットリしてしまう。

DS3はDSブランドのコンパクトSUV。これほど泥のイメージから遠いSUVもあるまい。内外の意匠は過剰なほど装飾的だが、実に洗練されている。

DS 3オペラ

試乗車のエンジンは1.5リットルのクリーン・ディーゼル。静かでトルキーで、てっきりガソリン・エンジンだろうと思い込んでしまったほどエレガントだ。DS3は、マリー・アントワネットが愛した小トリアノン宮殿のようなクルマである。パンがないならケーキをお食べ! オーッホッホホホホホホホ。

フェラーリ・プロサングエ「
全面的に肯定」

フェラーリの魂はエンジンにある、と信じている。フェラーリ・エンジンさえ積まれていれば、車体はトラックでもいい、と30年以上前から考えていた。もちろんセダンでも4ドア・スポーツでもSUVでもなんでもいい。美しければそれでいい。

フェラーリ・プロサングエ

世間的には、プロサングエはSUVと見なされており、「フェラーリよ、お前もか」的に評されることもあったが、6.5リットル V12エンジンの「フアアアアア~ン」という咆哮を聞けば、全人類の理性が吹っ飛ぶ。その瞬間に、ボディ・タイプへのこだわりなど無意味であることを知るだろう。

フェラーリ・プロサングエ

しかもプロサングエは、絶対的なトラクション性能によって、いつでも思う存分アクセルを踏み込み、フェラーリV12の本気サウンドを絞り出すことができるのだ。それ以上何を望むだろう。

もちろんこのクルマは、フェラーリにとっては余技だ。余技だからこそ、独創的なリア・ドア構造をはじめ、あらゆる点を全面的に肯定できるのである。

ベントレー・ベンテイガEWBマリナー「
マッサージ機に乗っているかのよう」

約10年前、ベンテイガが登場した時、世界にはまだこれほど贅沢なSUVはなかった。庶民の私は「なんじゃこりゃ」と思ったものだ。

ベントレー・ベンテイガEWBマリナー

乗ればトロトロにとろけそうにゴージャスで、「なんじゃこりゃ」の二乗。大いに肝を潰したものである。

その後VWグループはW12エンジンを廃止し、ベンテイガの「スピード」も消滅。パワーユニットのエコ化が進み、PHEVモデルも登場しているが、今回乗ったV8ツイン・ターボのEWBマリナーは、世のエコ志向を場外に吹っ飛ばすくらいゴージャスである。

ベントレー・ベンテイガEWBマリナー

とにかく後席の快適性がケタ外れ。ゆるゆる流せばBEV顔負けの静粛性に呆然。乗り心地は癒しの極致。マッサージ機に乗っているかのように、乗れば疲れが取れてしまう。本当の話である。

10年前は「なんじゃこりゃ」と思ったベンテイガだが、実はこれがサルーンの理想形だった。EWBマリナーはその究極の姿。理想×究極=至高でしょうか? 『美味しんぼ』みたいでスイマセン。

アウディSQ8スポーツバックeトロン「西洋人のゼイタクは年季が違う」

左右トルクベクタリングは、異次元のコーナリングをもたらす。私はかつて、三菱ランサー・エボリューションの「アクティブ・ヨー・コントロール」や、フェラーリ458イタリアの「Eデフ」によるコーナリング性能に大感動。「物理法則を超えている!」と叫んだが、それをBEVで実現したのがこのクルマだ。

アウディSQ8スポーツバックeトロン

アウディSQ8スポーツバックeトロンは、モーターを前に1基、後ろに2基、合計3基持っている。そのうち後ろの2基を左右独立して制御することで、旋回性能を向上させているのである。

ただ、味付けはアウディらしく理知的であり、決してでしゃばりすぎない。458イタリアのEデフが、不自然なほど左右トルクベクタリングを強く効かせ、UFOのような旋回感を生んでいたのとは対照的だ。

アウディSQ8スポーツバックeトロン

それにしても、こんなに速くてよく曲がるBEVを作ってしまうとは、さすが西洋人のゼイタクは年季が違う。BEVにはなによりエコや節約を求める我々日本人の感覚とは真逆。ローマ帝国もかくや。

「凄まじい破壊力」清水草一のいまのガイシャのここがスゴい!

日本車の高級化も進み、いわゆる「ガイシャ」という言葉が死語になりつつある昨今ながら、やはりハイエンドなガイシャたちの破壊力は凄まじいです。それを実感した試乗会でした。



現在、自動車業界は100年に一度と言われる変革期にあり、ガイシャ、特にヨーロッパ車はBEV化が進行。このままだとハイエンドと言うよりも、ハイパワー白物家電化が進んでしまうかもしれないわけですが、内燃エンジン派の反転攻勢によって、しばしの時間的猶予が与えられ、最後の晩餐(?)の真っ最中であります。

ガイシャのゴージャス化は、すでに天井を打っているでし ょう。しかしそれでも、ここまでのゼイタクが味わえるのです。日本という島国で国産車にだけ乗 っていたら、でっかい世界は見えないぜよ!
まだまだガイシャに学ぶことはある!  ボーイズ・ビー・アンビシャス!  還暦過ぎてるけどそう思いました。

文=清水草一

(ENGINE2025年4月号)

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement