自分の時間は大切にしたい、でも誰もいないのは寂しい。そんな気持ちに寄り添う交流型賃貸住宅がシェアを拡大中。新しいライフスタイルを提案する集合住宅を訪れてみた。
アパートメントの発祥、発達は都市化とシンクロする。産業革命以降、市民社会が形成されると同時に多くの人が住みやすいよう、ひとつの土地を立体化し、さらに空間を分割することで過密性をクリアした。そのひとつの到達点がル・コルビュジエのユニテ・ダビタシオン。都市を一棟の高層建築につくるという発想のもと、住居、パン屋、郵便局、幼稚園、ホテルなどを備えた様は、確かに「ひとつのまち」を思わせる。

アプローチは異なるが、近年東京や大阪の都市部で増えている交流型賃貸住宅も、巨匠建築家の発想に通じるものがありそうだ。嚆矢となったのが、不動産を扱うグローバルエージェンツのソーシャルアパートメント。2006年のスタート以来、すでに50棟を数える。主に使われなくなった企業の独身寮をリノベーションし、個人の居室のほか、オープンキッチンやラウンジなど居住者同士の交流を図るスペースを設けているのが特徴。今回取材した「ネイバーズ武蔵中原」のように、ライブラリーやシアタールームまで備えている物件もある。

プライバシーを確保、負担は軽減シェアハウスと異なるのは、建物をひとりずつ分け合う「割り算」ではなく、ひとり暮らし+αという「足し算」であること。共用部の清掃や備品の管理などのメンテナンスはすべて自社スタッフで対応しており、居住者の負担は軽減されている。そのためシェアハウスのように経済的な恩恵は少なく、賃料自体は近隣マンションと比べて際立って安いわけではない。だがそれ以上に大きいのは世代も年齢も異なる人とのコミュニケーション。もともと山崎剛社長の「SNSをリアルな暮らしへと発展させたら」というアイデアが出発点だったこともあり、人との出会いをメリットにあげる居住者は多い。実際、ここで意気投合してサッカーチームをつくったり、一緒に起業したりといった新しい輪が生まれている。もちろん、ライフスタイルや社交性の違いにより、人によって適応の差はあるだろう。だが、違いを受け入れ、尊重することは社会の大切な学び。ネットではなく、リアルにつながる意義は大きい。
先に挙げたユニテ・ダビタシオンは「Cite Radieuse(輝く都市)」とも呼ばれる。ソーシャルアパートメントが、令和の日本で次世代の新しい光源となるのか。楽しみながら注視していきたい。
文=酒向充英(KATANA)
問い合わせ=ソーシャルアパートメント https://www.social-apartment.com/
(ENGINE2025年7月号)