春の時計見本市や新製品発表も一段落。新作が続々と店頭に並び始めた。ダイバーシティー=多様性の時代。より柔軟・自由な”新基準=ニュースタンダード”によって、今の自分にふさわしい一本を選びたい。8名のENGINE時計委員の目利きを参考に、この夏、一生つきあえる腕時計をセレクト!
パテック・フィリップ カラトラバ・パイロット・トラベルタイム 5524
2015年のデビュー以来、ケース素材とサイズ、ダイアルカラーのバリエーションを展開してきた「カラトラバ・パイロット・トラベルタイム」が早くも10周年。
最新作は、戦前のサイドロメーターから想を得たダイアルデザイン、2本の時針によるローカルとホームのデュアルタイム表示、プッシュボタンのタイムゾーン調整機能といった特徴を踏襲しながらも、これまでのトーンとは違う明るいアイボリーダイアルを採用して印象をリフレッシュ。
ホワイトゴールドのケースとアイボリーダイアル、カーキのファブリック調ストラップが絶妙にマッチして、タウンユースにも適した軽快な表情を手に入れた。自動巻き。ケース直径42mm、3気圧防水。964万円。
熟成を重ね意匠や操作性が向上 柴田 充
海外出張の機会が増えてきた。とはいえ、以前の感覚を取り戻すまでにはまだ至っていない。そんな道中でも信頼を置けるのが機械式腕時計だ。荷物を抱えた空港や駅でも容易に時間が確認でき、バッテリー切れの心配もない。こんな時計があればより旅が快適になるだろう。
普段は3針で、旅先では第2時間帯を表示するトラベルタイムは、1996年の登場から操作性を含め熟成を重ねてきた。掲載モデルは誕生10年を迎え、従来のパイロットテイストからアクティブなアウトドアスタイルに。これを腕に、スマホやタブレットで情報を収集するというのがスマートな旅のニュースタンダードかもしれない。あとは円安も落ち着き、旅先でも財布を気にせず過ごせればいいのだけれど。
新しい「らしさ」を発見 菅原 茂
主役級の要素が揃う時計だ。ヴィンテージライクなパイロット・ウォッチのデザインと独自開発の秀逸なトラベルタイムの機能、ストーリー性の点では空と旅のロジカルな連携、収集家向けの逸品というよりは明らかに実用品としての価値を重視、とまあこんな具合である。
かつて伝統を重んじる老舗らしからぬとも評価されたこのモデル、実は「らしからぬ」を「らしい」に変えたマイルストーンだった。最近の「CUBITUS」や新世代「カラトラバ」だってそう。これがパテック フィリップの打ち出す新基準なら、こちらも新しい「らしさ」に歩調を合わせないとダメだろう。
時代は変わる、時計も変わる、そして選ぶ自分も変わる、それですべて良しなのだ。
パテック・フィリップ Twenty~4 永久カレンダー 7340/1
現代女性のライフスタイルに即したレクタンギュラーウォッチとして1999年に誕生したのが「Twenty~4」。最新作は、ラウンド型ケースに同コレクションでは初となる永久カレンダーを搭載する。3つの独立したインダイアルで曜日、日付、月、閏年をすべて指針で表示し、6時位置にムーンフェイズを組み合わせる。
山東絹を思わせる縦横二重のサテン仕上げが施されたダイアルもニュアンス豊かな表情を醸し、永久カレンダーを一段とエレガントに見せる。直径36mm、厚さ9.95mmのコンパクトなケースに収まるのは、パテック フィリップの複雑時計ではおなじみの超薄型自動巻きムーブメント、キャリバー240 Q。ローズゴールド、3気圧防水。1903万円。

至高のジェンダーレス腕時計 数藤 健「これはジェンダーレス・ウォッチだ」。ウォッチズ アンド ワンダーズのプレスカンファレンスで手に取ってそう思った。
直径36mmの円形ケースは薄くコンパクトで、重厚感と軽快感を兼ね備えたブレスレットともども腕なじみがとてもよい。絹織物を想起させる縦横のサテン仕上げを施したダイアルは質感高く、品と格式を感じさせる。閏年にもカレンダー修正が不要なパーペチュアル(永久)カレンダーと、ムーンフェイズ、24時間表示まで備わる……。
こんな時計を大切なパートナーと共有できたら、と、つい夢想する。日常使いを考える向きには、38mm径のスティール・ケース×ブレスレットのアニュアル(年次)カレンダー4947/1Aという選択もあるだろう。
洗練された美観 野上亜紀昨今、レディス向けのコレクションに性別を問わないモデルが加わる例をしばしば見かける。この永久カレンダーもまさにそんな時流にふさわしい一本だ。
「Twenty~4」は同社の代表的なレディスコレクションだが、その初の永久カレンダーは貴石をあしらっておらず、直径36mmのケースがまさにジェンダーレスなサイズ感。ホワイト文字盤に施されている山東絹パターンがまた美しい(グリーン文字盤もあり)。
この模様はTwenty~4に多用される一方で、年次カレンダーにも採用されている。知人男性がこの意匠の文字盤を着けており、カジュアルにもスーツにも見事に馴染んでいる。洗練された美観の時計は着ける人を問わないのだなあと、切に思うのである。
写真=奧山栄一
問い合わせ=パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109
(ENGINE2025年8月号)