近年、豪華寝台列車による国内旅行が人気を集めているが、阪急交通社が4月からスタートするのは国内を周遊する12日間バスの旅。1人98万円という参加費用はもちろん、このツアーのための専用車両“クリスタルクルーザー「菫」”を開発するなど、これまでにない贅沢なバス旅行として話題を呼んでいる。「我々が追求したのは車内における快適性とおもてなし。通常のバスは座席数が45席ほどのところを、思い切って18席にまで減らしました」こう話すのはKEN OKUYAMA DESIGN代表の奥山清行氏。JR東日本の寝台列車「トランスイート四季島」を手掛けた奥山氏のチームにとって、バスのデザインは手慣れていても、これだけ豪華で長距離のバスの旅のデザインは初めてとなる。
「自宅にいるような安心感と、旅先でのほどよい緊張感を両立させた」というバスの内装は、車窓からの眺望を最大限、確保するために頭上の荷棚を排除。代わりに手荷物を収納できる"シートシェル"を各シートの前方に用意した。またシートの背もたれと座面の素材には、座り心地の良さを考えて布地を採用。シートの角度は通常時でもリラックスできる109度にし、さらに20度までのリクライニングを可能にした。
「このツアーの主役はあくまで旅。我々のチームがデザインしたのは、バスの車両だけでなく、この旅でしか得ることのできない“体験”なんです」と、奥山氏が言う。「自分で運転して出かける旅の楽しみもありますが、あえて人が作ってくれた旅のプランに乗っかってみる楽しさもある。どんな出会いが待ち受けているのか、予想のつかない旅の面白さを、このバス旅行で体験してもらいたい。我々が知らない美しい日本は、まだまだあります」
■奥山清行:エンツォ・フェラーリやマセラティ・クアトロポルテなどのデザインで知られる世界的な工業デザイナー。クルマ以外にも鉄道、船舶、建築、時計、ロボット、テーマパークなど幅広いジャンルのデザインを手掛ける。2013年にヤンマーホールディングス社外取締役に就任。
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文=永野正雄(ENGINE編集部)
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