2019.03.28

LIFESTYLE

販売開始! 一流レストランの椅子に座ってみる

世界中の美食家が集まるデンマークの「ノーマ」と、東京にオープンした注目の「イヌア」。2つのレストランに置かれている椅子が販売されたが、その座り心地は?

スペシャルすぎる業務用の椅子

世界的に注目されている、2軒のレストランのために作られた椅子の販売が始まった。1軒は、デンマークはコペンハーゲンのノーマ。そしてもう1軒は、東京・飯田橋のイヌアである。ノーマは、著名なイギリスの雑誌「世界のベストレストラン50」で、4度も一位を獲得したレストランだ。新しい北欧をテーマに、地元で採れる野菜や果物、茸類に花などのオーガニック食材を使った、革新的な料理が特徴である。絶えず予約で満席だったが、一旦店を閉めて新しい場所で昨年再スタートした。同じく去年オープンのイヌアは、ノーマで長年活躍したシェフが料理長を務める、ノーマの精神を受け継ぐレストランだ。


この2つのレストランには、コース・メニューしかない。デザートも入れると、10皿以上が提供される。当然食事の時間は長い。だから、椅子が重要となる。ところが、特定のレストランのために椅子が作られ販売されることは稀だ。レストランで使われる業務用の椅子は、家庭用よりも格段に高い耐久性が求められる。しかもそれを、デザインと両立させないといけないのだ。今回、販売されるノーマの椅子「ARV(アーブ)」も、イヌアの「JARI(ジャリ)」も、共にレストランのインテリアを手掛けた人物が、その空間にマッチするようにデザインしている。製作は、130年以上もの歴史を持つ、デンマークのクルーガーブラザース。エルメスのテーブルを製造したことで、近年業界の話題となった木工工房だ。


ARV CHAIR for noma


デザインは、デンマークの建築家デビッド・サルストラップ。新しいノーマが目指したのは、「都市型農園」。木材を多用しつつも、モダンで温かみのある空間に並ぶ椅子は、伝統的なデンマークの木の椅子をリデザインし、より洗練させたもの。「遺産」を意味するARVの名前の由来はそこにある。農園にある木の枝をイメージした細い脚や肘掛は、無垢材から贅沢に削り出したもの。一見何でもない背もたれだが、座面と同じくペーパーコードを巻いた、めったに見ない仕上げ。独創性を感じさせる。20万円(税別・受注生産)

JARI CHAIR for Inua 

イヌアが目指しているのは、北欧と日本の融合。内装と椅子の新作は、日本での仕事も多いデンマークのデザイナー、トーマス・リッケが手がけている。メインで日本の椅子を用いる一方、プライベート・ダイニングにはJARIを置いた。背もたれの印象的な形は、職人が無垢材の塊から手作業で作り出したもの。椅子の名前は、水の流れで作られる不完全な丸いフォルムが魅力の「砂利」から。椅子の色もグレーである。こちらも伝統的なデン マークの椅子のリデザインだが、新しいものへの挑戦が感じられる。28万9000円(税別・受注生産)

2つの椅子は料理よりも目立つことがなく、上質さが伝わる姿をしている。しかも、デンマークの伝統を踏まえながら、オリジナリティがある。レストランに置かれる椅子ゆえ、特に後ろ姿が美しい。体に触れる部分の心地よい仕上げも重要だ。そしてなにより、座面が広くて座り心地が良い。長く座っていると、姿勢は段々と崩れるもの。それを受け止めるデザインである。しっかりした長さの肘掛は、次のお皿が出てくるまでの時間、腕を休めるのにちょうどよい。そして肝心の耐久性も、業務用として十分な上に軽い。この2脚は、高級レストランの椅子に必要な全ての要素を備えている。「優れた業務用の椅子は、家庭で使っても便利」とは、よく言われること。ノーマとイヌアの椅子は、家庭のダイニングでも、魅力あるものに違いない。


文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー)

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