「若い頃の歌声は薄っぺらだった。でも歳を重ねて、より深く厚みのある声になってきた。いいワインみたいにね」
先頃、某テレビ番組のインタビューに答えて、スティングはそんなふうに言っていた。御年67歳。孫も6人いるそうだが、未だ精力的に音楽活動を続け、確かに現在の歌声には厚みと深みと艶がある。
そんな彼から届いた新作『マイ・ソングス』。これはザ・ポリス時代に始まる40年のキャリアにおいての代表曲を、彼自身が現代向けにアップデートしたものだ。といっても単なるセルフカヴァーにあらず。具体的に書くなら、まずスティングは選んだ曲を「現代性」という物差しで測り直した。そしておよそ半分のトラックを、新しく録音したものと差し替えた。例えばシンセサイザーなどの音色が露骨に時代性を感じさせていた部分。昔のレコードを久しぶりに引っ張り出して聴いたとき、「曲は今聴いても最高なのに、音が古臭いんだよな」と感じることがときどきあるが、スティングはそこを徹底的に見つめ直して修正し、過去の楽曲群を現代に合った音にして蘇らせたのだ。また"薄っぺら" に感じられた若い頃の声を、深みと厚みのある現在の声に取り換えた。つまり、ほぼ全て歌い直したそうだ。が、そこで拘ったのは、オリジナルにあった感触とエネルギーを絶対に殺さぬようにすること。だから歌声は現代のものだが、節回しなどは元の通りだ。
曲順がまた、いい。ソロ活動25年目の際のベスト盤はリリース順に曲が並べられたものだったが、今作はソロ曲とソロ曲の間にザ・ポリスの曲が挿みこまれたりするのが新鮮だ。例えば内省的なソロ曲『フィールズ・オブ・ゴールド』の次に性急なビートが効いたザ・ポリスの『ソー・ロンリー』がきて、味わい深いソロ曲『フラジャイル』がきたかと思えば、ザ・ポリスのレゲエ曲『ウォーキング・オン・ザ・ムーン』へと続く。その静と動との波状攻撃によって不思議な昂揚感がもたらされるのだ。この大胆な曲順を含めての再構築と再定義。それは明らかに現在と未来に対してのアプローチであり、過去を懐かしむことの真逆であるあたりがまた実にスティングらしいのである。
文=内本順一(音楽ライター)
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