ロサンゼルス出身、17歳のシンガー・ソングライター、ビリー・アイリッシュが音楽界に革命を起こしている。そう言っていいくらい彼女はいま、時代の象徴として世界を席捲しているのだ。3月に出 たデビュー・アルバムは世界11ヵ国で1 位を獲得し、英国では女性ソロ最年少1位に。また米オルタナティブ・ソングのチャートにおいて複数の曲で1位を獲得した3人の女性のひとりにもなった(あとのふたりはアラニス・モリセットとシネイド・ オコナー)。
デイヴ・グロールは「1991年のニルヴァーナと同じことが起こっている」とコメント。つまりそれまでの価値観をたった1作でひっくり返したのがビリーだと言いたいのだろう。じゃあ彼女の音楽の何がそれほど革新的だったのか。
まず前提として、2010年代のポップ のヒット曲の大半は何人かのソングライター&プロデューサーの共作によってできている。人気のラッパーやシンガーがフィーチャーされてもいる。しかしビリーはミュージシャンの兄とふたりだけで、兄のベッドルームで曲を制作。リミックス以外、ゲストも呼ばない。つまり派手な飾り立てもセレブ的なアピールも一切なしに、必要最小限だが耳に残らないわけにはいかない音と囁くような歌声を強く印象付けたわけだ。
楽曲の根底にあるのは心の奥の闇や憂鬱で、MVはホラー映画のよう。例えば"命を絶ちたい私の望み"と繰り返される「ベリー・ア・フレンド」では衣服をはぎ取られて背中に何本もの注射器が突き刺される。ダーク極まりない表現だが、同世代のティーンたちに熱狂的に受け入れられ、たちまち1億回以上の再生回数を記録した。
銃乱射事件が当たり前に起き、それに備えて学校で避難訓練を受けさせられるいまのアメリカの10代にとって、ビリーの表現する不安、恐怖、憂鬱は圧倒的にリアルだったということだ。「でも大丈夫」「未来は必ず輝くから」などと借りてきた慰めや希望は歌わない。
だが、欲と嘘にまみれた大人たちの言う"明るい未来"の千倍くらい、若い子たちはそんなビリーの歌に共感し、抱きしめられた感覚を覚える。若い子たちにとってビリーは本当のことを言ってくれる救世主なのだ。そう、かつての若者にとって、ビートルズが、セックス・ピストルズが、ニルヴァーナがそうだったように。
17歳とは思えぬダークなビジュアルでも話題を呼ぶビリー・アイリッシュ。まったく媚びることのない超個性的な存在感も、若者から絶大な支持を集める理由となっている。
文=内本順一(音楽ライター)
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