2026.02.14

LIFESTYLE

鎌倉の古い木造平屋を生かして、4つの「かまくら」をつないだ 家族二世帯が暮らす、アートのような家

モダンに整えられた母屋を、増築した四隅のドーム状の構造物が支えている。

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鎌倉の山の中に誕生したこの個性的な住宅が、今、建築界で話題になっている。大きなガラス窓が連なる瓦葺の建物を、巨大な壺のような4つの構造物が囲んだ姿は、アートギャラリーか隠れ家レストランのようだ。まさかこれが、 60年近く前に建てられた昭和テイストの実家を増改築した、二世帯住宅だとは誰も思わないだろう。

この建物を手掛けたのは、若いデザインチームのAATISMO(アアティズモ)。メンバーは海老塚啓太さん、中森大樹さん、桝永絵理子さんの3人で、これまで照明や家具などプロダクトを中心に発表してきた。海老塚さんと桝永さんが夫婦で、今回は桝永さんの実家のリノベーション。彼らにとってこれが2軒目の住宅作品となる。

4つの“かまくら”がある鎌倉の家

完成した家は、これまで見たことのない形をしている。モダンに整えられた母屋を、増築した四隅のドーム状の構造物が支えているのだ。このドームが大きな特徴で、「雪国の『かまくら』を想像してもらうと分かりやすい形」と中森さんは説明する。かまくらは土を盛り固めたような外見だが、骨格は木製で内部は部屋になっており、入口は母屋に接している。表面は、敷地内の土や陶芸用の粘土、鉄粉などを用いて仕上げられ、まるで焼き物のよう。膨大な実験の末にたどり着いた、彼らオリジナルの技法である。アートのようなこの家が生まれた背景にあるのが、陶芸家である桝永さんの両親の存在だ。

この家の最大の特徴である、大きな陶器のような表情をしたドーム状の「かまくら」。下部は大地を、上部は空を表した色合い。内部は部屋になっている。

文化人が好んで住んできた歴史ある鎌倉の町には、他の町とは異なる独特の空気が漂っている。桝永さんの両親はイラストレーターから陶芸家に転身し、かつて自分たちが建てた世田谷の家で創作活動を始めたものの、環境がしっくり来なかった。そこで創作しながら暮す町として選んだのが鎌倉だ。この家を手に入れたのは15年前のこと。駅から随分と離れた、鎌倉特有の丘と丘に挟まれた谷あいに建つ家で、敷地の裏手には木々が生い茂る山が迫っている。数年前に敷地に至る山道が崩れたことを契機に、擁壁を整えて家を直し桝永さんの夫婦も一緒に暮すことになった。


▲改装前の両親の家

海老塚さんは、この敷地に二世帯住宅を作る理由として、「鎌倉は創造的な仕事をする環境として素晴らしいから」と話す。口には出さないが、桝永さんの両親が芸術家でありながらコミュニケーション力のある魅力的な人物であることも、きっと理由のひとつだろう。もっとも両親は、クリエイターとしては厳しい。子供たちの提案してきた、無難な二世帯住宅案を一蹴。もっと「攻めた建築」を求めた。自邸でもあるこの家は、ASATISMOにとって自分たちの存在を世に問うことになるのだから、当然かもしれない。



そのうえ桝永さんは、大学院時代にチベット仏教の僧院を研究している。現地を訪れた際、「生活と創作の場が近く、自然と一体になったプリミティブな暮らしに関心を持った」。海老塚さんも古代ローマの建築を研究するなど、モダンとは対極の建築に興味ある。こうして驚愕の住宅が誕生したのである。こだわり抜いたかまくら表面の仕上げは、ボランティアの学生たちが手伝った。しかも建築系ではなく、アート・デザイン系の学生がほとんどだったという。建築だけに留まらず、アート・デザインの領域にまで踏み込んでいるのが、AATISMOの仕事の魅力だ。

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