齋藤 今回はフランスとイタリアのピュア・スポーツカー、アルピーヌA110とアルファ・ロメオ4Cスパイダーの2台。どちらも1.8L級の4気筒直噴ターボ過給エンジンとデュアル・クラッチ式自動MTを組み合わせたパワートレインをリア・ミドシップに横置き搭載した2座モデル。大井さん、4Cに乗るのは初めてだって言ってましたが、率直なところ、印象はどうでしたか?
大井 ほんとうに乗ってみたかったんですよ、4Cには。たまに街で見かける4Cがカッコよくてカッコよくて、走らせたらどんな感じなんだろうと、想像逞しくしていたんですよ。斜め後ろから見たスタイルなんか、思わず見とれちゃう。低いところから見ても高いところから見ても、あのボリューム感たっぷりなグラマーなスタイリングが素敵。
齋藤 昔風に言うなら、トランジスタ・グラマーですか。全長は4mに満たないのに、その短いなかであの抑揚あるライン。1960年代のイタリアン・レーシング・スポーツを彷彿とさせるあのスタイリングは、4Cの大きな魅力ですよね。
大井 外観から想像していたのとだいぶ違って、はるかにスパルタンな乗り物だった。
新井 4Cって、クーペにしてもスパイダーにしても、どちらにも2種類あるんです。脚を変えて性格の違うものを作り分けている。標準仕様に対して、スポーツ・パッケージというメーカー・オプションを組み込むと、サーキット走行に軸足を置いた硬派のモデルに激変するんです。合わせてマフラーも爆音を吐き出すスポーツ・タイプに変わる。
齋藤 脚は前後ともスプリング、ダンパーともに締め上げられて、リアにもスタビライザーが組み込まれる。
新井 ロードホイールも前後とも径が1インチ拡大されて、そのデザインも90年代以降のアルファのスポーツ・モデルを連想させるものになる。これでエクステリアの表情がさらにスポーティになる。このホイールだけが欲しいんだったら、単独オプションでそれを選べばいいんですが、内装トリムを上質なものにするレザー・パッケージやアルカンターラ・パッケージというメーカー・オプションを選ぶには、まずこのスポーツ・パッケージを選択しなければならないんで、街で見かける4Cはほとんどがこの硬い脚を組み込んだモデルになってるみたいです。
齋藤 悩ましいオプション設定だよねぇ。スポーツ・パッケージなしでも内装トリムを選べるようにすればいいのに。街で乗るには、スポーツ・パッケージの設定はちょっとね。
大井 僕は、脚はそれでも意外にしなやかだなって思った。乗り心地はわるくない。スパルタンだなって思ったのは、これで騒音規制通ってるの? って思うほど大きな排気音のせいが大きいかな。
齋藤 しかるべき場所でスポーツ走行を存分に楽しんでくれ、という仕様なんですよ。
大井 それとね、ドライ・カーボンのセンター・バスタブと前後にアルミの本格的なサブフレームという構造のクルマが800万円ほどで販売できるんだってということにもあらためて驚くよね。
齋藤 作り方を見ると、相対的に高くないクルマだと思う。
大井 そういう作りのおかげで車両重量はたったの1060kgしかない。そこへ240psと35.7kgmでしょう。読者の多くは240psって今どき大したことないと思うかもしれないけれど、この軽さにして、このパワーとトルクだから、加速感はレーシング・カー的な強烈なものがある。
新井 マツダ・ロードスターと同じ重さにほとんど2倍のパワーがあるわけですからね。
大井 フォーミュラ・カーに通じる加速感、気持ちよさがある。市販車で近いものを上げるとすれば、ロータス・エリーゼかな。小さくて軽いということでは。
齋藤 機能部品剥き出しのスパルタンな感じもいちばん近いですよ。ただね、ロータスの場合、あくまでも量産規模と作りやすさ、重量などを考えて、アルミでセンター・バスタブを作ったわけだけれど、アルファ・ロメオは、エリーゼから十数年経ってからということがあるにしても、いきなりレーシング・カーと同じドライ・カーボンですよ。トラック走行専用みたいなスポーツ・パッケージまで用意して臨むぐらいだから、4Cの目的ははっきりしている。だったらっていうんで、いきなり理想主義でやっちゃう。そこがいかにもイタリアというか、アルファ・ロメオの血脈というか。開発にはレーシング・カー・コンストラクターのダラーラも絡んでいるしで。
大井 4C、サーキットで走らせてみたいなぁ。
新井 痛快ですよ。
大井 スポーツ・ドライビングを一から学び、楽しもうというのであれば、4Cはほんとうにいいクルマだと思うな。
齋藤 もう1台のアルピーヌA110はどうでした。こちらは、前にも乗ったことがありますよね。
新井 ちなみにこれは軽量鍛造ロードホイールやフルバケット・シートが標準装備になる仕様です。
齋藤 昔のA110を思い出させるデザインの鋳造ホイールとリクライニング可能なバケット型シートが標準になるリネージがある。でも、脚の設定はどちらも同じ。
新井 ルノー・スポールでいうところのシャシー・スポール相当。
齋藤 公道走行に照準を合わせ込んだ設定ということになる。そのおかげもあるに違いないけれど、なにしろ乗り心地、快適性が抜群。サーキットへ行ってスポーツ走行をガンガン楽しみたいという向きは、最近フランスで発表されたA110Sをどうぞ、ということなんだと思う。
大井 とはいっても、今回乗ったピュアという仕様は、リネージに比べればスポーティという位置づけなわけでしょ。
齋藤 脚の仕立ては同じですからね。
新井 鍛造ホイールのおかげでバネ下重量が軽いから、ロードホールディング性能は高くなっているでしょうけど。乗り心地の良さにも貢献しているはずだし。
大井 ピュアのフルバケット・シートはできがけっこう良くて、クッションの厚みもかなりあるから、リクライニング機構がなくても、微妙なポジション調整が座り方でできる。
新井 シートの取り付け高は調整できるようになってます。
大井 それにしてもさ、このA110のいまのバランスって、ほんとうに素晴らしいよね。
齋藤 これだけ路面状況の思わしくない日本で乗って、なんの不満もでないんだから、すごいですよ。
大井 アルファの4Cは踏んでいくと気持ちいいんだよね。なんだけど、パーシャル領域で穏やかに走っている時のドライバビリティを念入りに作っていない感じがする。それに対してアルピーヌの方は、一般道でも走り出した時点で、軽やかで気持ちいい。爽やかな朝にスニーカーを履いてジョギングに出た時のような気分になる。そういうところもきっちり開発してある感じがする。
新井 開発の人に話を聞くと、とにかく軽くて俊敏で、というのが目標で、過渡領域で気持ちよくて云々みたいな話は出てこないんですよ。
齋藤 とはいっても、これは公道走行に照準を合わせた仕様なわけだから、当たり前のようにそういうところをきっちり開発してあるんだよ。
新井 最近Sが出たわけだし、すでにGT4カテゴリーでレースも戦っているから、その間を埋める仕様もいずれ登場するんじゃないですか。
大井 なるほどね。
齋藤 これだけ乗り味が快適だと街なかで使っていても楽しい。サイズも小さいし、全幅が過度に広くないのも扱い易い。乗り降りも4Cに比べればずっとらく。内装もきっちりフルトリムされているし、日常的な使い勝手に肌理細やかに気が配られている。
大井 ボディのサイズやエンジンのスペックなどが近い2台であっても、4CとA110は目指しているところが全然違うということでしょう。
新井 1960年代のオリジナルのA110が代を重ねながら存続し続けていたとしたら、いま、それはどんなものになっていただろうか、ということを念頭に置きながら開発したのがこの新型A110なんだって、アルピーヌの人は言いますからね。
齋藤 原初のA110はラリー・フィールドでの活躍によって世界中で知られるところになり、伝説化しているわけだけれど、そもそもは専らラリーを戦うために作られたホモロゲーション・スペシャルみたいなものでは全然なかったわけだからね。ルノーの乗用車用プラットフォームとパワートレインを使った、ロング・ツーリングもこなせる快適なスポーツカーとして作られたクルマだ。
新井 新しいA110は、そういう根幹にあるコンセプトのようなものを見事に蘇らせることに成功したクルマだと言っていいと思う。
齋藤 4Cだって、とくにデザイン開発では、かつてのティーポ33/2ストラダーレを思い起こしながら作ったクルマなんだから、その点ではA110と同じようなものなんだよ。でも、そのティーポ33/2ストラダーレ自体がさ、見た目や保安基準適合とかではストラダーレ(=ロード・カー)でも、中身はまんまレーシング・カーみたいなクルマだった。4Cもそこは同じなんだね。
話す人=齋藤浩之+新井一樹(ともにENGINE編集部)+大井貴之 写真=神村 聖
■アルピーヌ A110 ピュア
■アルファ・ロメオ 4C スパイダー
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