時刻と日付表示以外の機能を備えたタイムピースは、コンプリケーション・ウォッチと呼ばれ、一般的な時計をはるかに凌ぐ多くの部品が複雑に組み込まれている。こちらは「年次カレンダーRef.5146」のオーバーホール作業。熟練の時計師が、極小部品をピンセットで一つ一つ丁寧に外してゆく。妥協を許さない彼らのこうした手作業が、パテック フィリップの時計1本1本の品質の高さを支えている。
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「継承」という考え方は、パテック フィリップの比類ない時計づくりの根幹をなす姿勢と直結している。この思想を支えているのが、製品化されたタイムピースすべてに対応するアフターサービス体制である。新たに生れ変わった、東京のパテック フィリップ ジャパン・サービスセンターを特別取材した。
伝統的な機械式時計は工業製品の一種だが、高水準の品質を生み出すのは、あくまでも熟練の手仕事である。実際、微小な部品の加工に始まり、数百個にも及ぶ部品の組み上げ、装飾仕上げ、調整や品質検査を経て出荷に至るまで、全工程が人的作業で成り立つのが高級機械式時計。将来にわたり機能や品質を保ち、最適な状態を維持していくのにも、製造と同様に相応の熟練技術が不可欠だ。
パテック フィリップは、スイスのあらゆる品質基準を超える「パテック フィリップ・シール」という厳格な品質ラベルを独自に設け、これを製造からアフターサービスにいたるまで徹底する世界で類のないメーカーだ。完璧なサービスの提供を重視するのは、顧客が購入した時計が世代から世代へと受け継がれる価値ある逸品であり続けるようにするため。 自社で完結する一貫体制は、未来にまで及び、先々まで作り手の責任を全うするのが使命だと考える。
日本でその重責を担うのが東京のパテック フィリップ ジャパン・サービスセンターである。2019年10月から新たな場所で稼動したサービスセンターには、瀟洒なレセプションルームを含むフロアに20名あまりが常駐し、ムーブメントを主とするテクニカル部門で14名、外装のポリッシング部門で2名が働く。ウォッチメーカーやポリッシャーが使用する作業台などの設備は、スイスのパテック フィリップで使用されているものと同じ仕様だ。
同じなのは設備だけではない。時計を扱うスタッフの技量も同等でなくてはならない。彼らはスイスのパテック フィリップ研修センターで2〜3年毎に研修を受け、資格認定を受けることによって技量の維持と向上に絶えず努めなくてはならない。
例えばレベル2では扱えるのは、ベーシックな手巻きや自動巻き。レベル3になると、年次カレンダーやワールドタイムやトラベルタイムといった複雑時計へと範囲が広がる。さらにその上のアドバンスレベルではクロノグラフや永久カレンダー搭載クロノグラフを、という具合だ。しかもこのアドバンスレベルもAからE段階まで細分化され、それに応じて扱える時計も違ってくるという。因みに東京のサービスセンターでは、レトログラード日付表示針付永久カレンダーまでの対応が可能であり、つまり一般的な時計については、本国と同じサービスが受けられると考えてよい。ただし、天文時計やトゥールビヨン、ミニットリピーター等、特殊なグランドコンプリケーションはスイス本国での対応になる。また手巻きのキャリバー215より以前のムーブメントを搭載するモデルで、1970年代半ばより前に作られたものは、アンティーク扱いになり、これらもスイスに送られる。
東京のサービスセンターに持ち込まれる時計は年間約5000本。それらは、まずムーブメントと外装に分けられ、全パーツの洗浄から作業が始まる。ケースの磨き仕上げのポリッシングについても、スイスで資格認定を受けたスタッフが作業する。仕上げられたケースは、ケース単体で防水検査を行い、パスしたものにメンテナンスや修理が完了したムーブメントを組み入れ、さらにその状態で防水検査を施す。最後の品質検査は最も厳重だ。クオリティコントロール担当者以外は入れないクオリティコントロールルームの中で仕上がりが完璧かどうかを確かめる。
機械式時計の特殊なのは、全部品が組み立て、分解、再組み立てが可能なように作られていること。だからこそアフターサービスを適切に受ければ長寿命が保たれ、何世代も使える逸品であり続ける。それを支える熟練技術も人から人へと伝承されたものに他ならない。サービスセンターで日々実践されている作業にも、代えがたい意味と計り知れない価値があるといえるだろう。(菅原 茂)
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数ある老舗時計ブランドの中でも、創業以来180年の長きにわたって独立経営が保たれているのは パテック フィリップだけである。そのため、スイス本社には過去に製造された時計の設計図や部品類、工具類が、年季の入った引出しに今も大切に保管されており、ここには自社で製造したすべての時計に対応できる環境が備わっている。
パテック フィリップでは「修理」と「修復」を明確に分けて、1970年代半ばより前に製造された時計はアンティークとして扱われ、それらはスイス本社で"修復"が施される。古い時計の部品や工具が見つからなければ、当時の詳細な設計図から熟練のスタッフが手作業で作り直すほどの徹底ぶりだ。パテック フィリップ・ミュージアムに収蔵されている歴史的マスターピースも 完動品として修復するその高度な技術は、もちろん時計製造と同様に世界最高峰。完璧なアフターサービスがパテック フィリップという名門ブランドの"永遠"を 支えているのである。(菅原 茂)
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