第一次世界大戦の終結から100周年を迎えた2018年の10月、BFIロンドン映画祭で上映された1本のドキュメンタリー映画が驚きの声をもって迎えられた。西部戦線に派遣されたイギリス兵たちの姿を捉えたその映像は、最新のデジタル技術により細部にいたるまでレストアされていただけでなく、鮮やかなカラー映像に生まれ変わっていたのだ。『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソン監督が手掛けたこの作品『彼らは生きていた』は、翌年アメリカでも公開され、興行収入が1800万ドルを超える異例のヒットとなった。
本作に使用されたのは、イギリス帝国戦争博物館に所蔵されていた、2200時間以上にも及ぶアーカイブ映像の一部だ。もともとの映像は毎秒13フレームや16フレームといったバラバラのスピードで撮影されていたため、人々の動きが自然に見えるよう、人工的に新たなフレームをつくるなどして毎秒24フレームに統一された。また経年により劣化の激しかった映像は、最新の3D技術などを使って、立体感のある美しいカラー映像となった。本作における兵士たちの豊かな表情、躍動感のある動きは、これまでの歴史フィルムではあまり見ることができなかったものである。
映画のナレーションに採用されたのは、BBCに保管されていた退役軍人のインタビュー素材だ。一方、映像に捉えられた兵士たちの声は、訛りに到るまで新たなキャストの声で再現され、風の音や泥の中を行く足音、馬のひづめ音といった環境音は、本作のために収録したものを映像に重ね合わせたという(当時は撮影中に音声を同時録音する技術がなかった)。
気の遠くなるような作業の末に完成した本編の映像は、まるで観るものが戦場に立たされているかのような臨場感をもって迫ってくる。有刺鉄線に引っかかったまま置き去りにされた死体、騎兵隊に降り注ぐ砲弾、平原を覆いつくす緑色の毒ガスなど、カラーで復元された映像が提示するのは、まさに文字通りの地獄絵図だ。
だが常に死と隣り合わせの兵士たちも、いったん前線を離れて宿舎に戻れば、仲間たちとジョークを飛ばしあったり、楽しそうにスポーツに興じたりする、普通の若者の素顔を見せる。自ら志願した兵士たちの中には、18歳にも満たない少年たちも多く含まれていた。100年前の若者たちが、どのように戦争と向き合い、そして悲惨な時代を生きていたのか。その姿を現代に蘇らせた本作は、彼らが歴史フィルム上の記録ではなく、血の通った人間としてこの世に存在したことを証明する。
2020年1月25日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
配給:アンプラグド 99分 R15+
(c) 2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
文=永野正雄(ENGINE編集部)
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