著名な芸術家を多数、輩出したドイツの造形学校バウハウス。その開校100周年を記念したイベントが、昨年より各地の美術館で開かれている。
筆者の実家がある鎌倉、特に中心部はしゃれた建物が多い土地だ。鎌倉とはいえど、山を崩して造成されたニュータウン出身の自分には、素敵なお屋敷も鑑賞対象。鶴岡八幡宮の参道、若宮大路沿いにも戦前に建てられたモダニズム建築の風情ある動物病院が一棟あり、通るたびにうっとりと眺めていた。そして、その建物がバウハウスで学んだ数少ない日本人のひとり、山脇巌が設計したものだと知ったのは、マンション建設のため建物の解体が決定したニュースでだった。
バウハウスとは、ドイツで1919年に建築家グロピウスが設立した造形学校。カンディンスキーやクレーなど、当時を代表する芸術家たちが指導にあたった。入学後、幅広い芸術分野の基礎的な理論や知識を徹底的に学び、その後の3年間、工房に入ってしっかりと技術を学ぶ。現在は当たり前の教育方式だけれども、当時としては非常に画期的で、その結果数多くのデザイナーや芸術家を輩出した。ナチスの弾圧によりわずか14年で活動が終わってしまったことが悔やまれる。
そんなバウハウスは昨年で創立100周年。これを記念し、全国各地でバウハウス関連の展覧会が開催されている。そのひとつ、東京国立近代美術館の所蔵作品展MOMATコレクションでも、パウル・クレーの絵画など、所蔵品からバウハウスにゆかりのある作品を展示している。そのなかで異彩を放っていたのが吉岡堅二《椅子による女》だ。この絵は1931年に描かれた日本画で、作品そのものはバウハウスとは全く関係がない。しかし、そこに描かれた女性が腰掛けている金属のパイプ椅子は、バウハウスのデザインに強い影響を受けたものだ。美術館では、この絵の左側にバウハウス3代目校長のミース・ファン・デル・ローエが、右側には山脇巌がデザインした椅子が置かれている。しかも、この椅子は私がうっとり眺めていた鎌倉の動物病院で使われていたものだそう。美術館で家具や椅子が展示されているのはよく見るけれど、その当時どのように使われていたのかを想像できる展示はとてもうれしい。
100年後の私達もいまだに新鮮さを感じるバウハウスとそのデザイン、ぜひ一度じっくりと見てみてほしい。
【東京国立近代美術館】
吉岡堅二は、洋画や抽象画などの手法を積極的に取り込み、美術団体「創造美術」(現創画会)を結成するなど、日本画の革新を目指した画家。マルセル・ブロイヤーはバウハウスで学び、後に教鞭も取った建築家、家具デザイナー。ワシリーチェアは自転車のハンドルに着想を得てデザインされた。所蔵作品展MOMATコレクションは10月25日まで。
東京国立近代美術館:東京都千代田区北の丸公園3-1 ℡.050-5541-8600
【宇都宮美術館】
栃木県の宇都宮美術館では"アトリエという「真空」――三岸好太郎、蝶と貝殻とバウハウス"を開催中(11月29日まで)。三岸はシュルレアリスムの影響を強く受け、蝶や貝殻をモチーフにした作品を多く残した画家。東京都中野区にある三岸家のアトリエは山脇巌が設計したもので、三岸自身もバウハウスにより確立されたモダニズム空間に傾倒していた。
宇都宮美術館:栃木県宇都宮市長岡町1077 ℡.028-643-0100
【東京ステーションギャラリー】
東京ステーションギャラリーでは巡回展『開校100年 きたれ、バウハウス―造形教育の基礎』を開催中(9月6日まで)。1919年に開校したこの造形学校は、14年の間に3回の移転を余儀なくされた。本展覧会ではバウハウスとは何かという問いに、「学校」であるという視点から迫る。チケットは事前購入制。
東京ステーションギャラリー:東京都千代田区丸の内1-9-1 ℡.03-3212-2485
文=浦島茂世(美術ライター)
(ENGINE2020年9・10月合併号)
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