いま着けたいのは、“物語” のある時計--。その興味深いストーリーを知るほどに魅力は深まるばかり。ここに現代の名品たちを主役にした珠玉の短編集を編んでみた。
1845年にグラスヒュッテにて時計産業を興したフェルディナント・アドルフ・ランゲ。彼が立ち上げた「A.ランゲ&ゾーネ」は大きな名声を手に入れたが、第二次世界大戦で壊滅的な被害を受け、戦後は艱難辛苦の歴史を歩んできた。しかし1990年のドイツ再統合をきっかけに会社は再興し、それから4年かけて歴史と技術を継承した"新作"を開発した。その中のひとつである「ランゲ1」は、今でも統一ドイツの象徴として高い評価を受けている。
ランゲ1の特徴は、時刻やパワーリザーブの表示を重ねないことで視認性を高めるという徹底的な機能主義。その思想は新作にも受け継がれる。「ランゲ1・タイムゾーン」は、8時位置のプッシュボタンで都市を選ぶと、4時位置の時分針がその地の時刻を示す旅時計。2005年に初出し、今年第2弾としてアップデイト。2つの時刻表示内にナイト&デイ表示を取り入れ、さらにはサマータイムの有無を示すマーカーを加え、より実用性を高めた。
旅の再開はまだ先だが、旅に思いを馳せるのは自由だ。ベルリンのカリーブルスト、ホノルルのサンセット、ドバイのゴールドスークなど、この時計を眺めながら旅の思い出を振り返るのも、また楽しいことなのだ。
文=篠田哲生 写真=近藤正一
(ENGINE2020年9・10月合併号)
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