ユーズド・カーの連載を7年近くにわたって担当するなどおそらくエンジン編集部でいちばん旧いクルマ好きのところへジャガーの最新EVが。新しいクルマ生活様式、はじまります。
毎日続けることで、変わることがある。半年前、ふとしたきっかけではじめたストレッチが癖になり、近頃はトレーニングをしないとむしろ落ち着かない。手持ちのスーツが次々着られなくなったのは参ったが、自分自身が日々変化していくのは面白いものだ。そして1カ月前から、もっと劇的な変化も起こった。編集部に89台目のリポート車として加わったジャガーIペイスと日々生活を共にすることで、僕の意識は大きく変わることになったのである。
実はコミューターとしてならともかく、バッテリーに革命が起こらない限り、まだまだEVは中途半端だと思っていた。アイミーブにはじまりリーフが切り開き、EVが世界よりも先行した日本市場も、税制や補助金のおかげで当初はエコノミーではあったが、結局1台のライフサイクルや、何が電気を生み出すかを考えればエコロジカルとは言い難い。今日欧州各社がEV一辺倒になっている要因も、新興勢力に対する焦りや、厳しくなる排ガス規制対策や、主に中国にむけての戦略である。むしろこの流れで、大排気量で多気筒の自然吸気エンジンが失われていくのが悲しかった。少しでも名機たちに触れようと、中古車の連載でその手のクルマ探しに勤しんだほどだ。
とはいえEVならではの面白さは理解できないわけじゃない。最新ガジェットのような驚きや喜びには共感できる。ただ、どの既存の自動車メーカーのEVも踏ん切りが足らず迷いが見えるのだ。スマホもやるがガラケーも……と悩むかつての日本の家電メーカーの姿が重なる。
ところがジャガーIペイスにはそういう迷いがない。既存のクルマを電気化せず新しいプラットフォームを造り、その上で長年培ったクルマとは何か、ジャガーとは何かということが、ぎっしり詰め込まれている。Iペイスを見ていると、今が時代の変わり目ということが伝わってくる。1カ月乗って、もう内燃機関には戻れないかも、とすら思う。
その理由は、やはりEVならではの運動性能とそれがもたらす心地よさ、そして90kWhというバッテリー容量と438kmの航続距離(WTLCモード)の適切さだ。
Iペイスの自分の意思とほぼシンクロするかのような、ラグのほとんどない身のこなしは、一度味わうと病みつきだ。しかもほぼ無音で、変速ショックもなければ振動もないのは、かつてのV12搭載ジャガーみたいだ。足さばきもお見事でロールはしっかり抑えられているし、4輪を協調制御するトルクベクタリングのおかげでコーナリング速度は恐ろしく速い。操舵に対する反応に至っては下手なスポーツカーをしのぐと思った。今月試乗した最新ポルシェたちが、すごく旧くさく感じて驚いた。これは正直ショックだった。
逆に気になったのは回生ブレーキ効率が高いモードとクリープがオフの時の違和感くらい。最初の半月だけ試したが、消費電力の差はさほど出なかったので回生は低い方に、クリープはオンに切り替えた。特に回生ブレーキについては、とっさに止まりたい時、回生に頼るかペダルを踏むかで一瞬躊躇してしまう。ジャガーは回生で完全停止まではしない方針だ。最後にクルマを停めるのはあくまでペダルを踏んで、という考え方に同意したい。なお、車両設定のもう1つ、車内への電子サウンドは、せっかくの静けさがなくなるのは惜しいけど、思ったよりも気分が高揚するので、マイルドとダイナミックを切り替えて走っている。
充電の間隔は長く、予想以上に走る。89号車のベース基地は編集部にある200V、3kWの普通充電。僕の住む集合住宅の車庫にはコンセントがあるが、100V電源で89号車の充電はできない。しかも自宅近隣の急速充電施設は一番近くで2.5km先……おかげで最初は航続距離が頭から離れず、機会があれば即急速充電、という感じだった。しかし片道約25kmの通勤路を毎日走り、あちこち取材で都内を動いている限り、3日に1度、1日約6時間ほど編集部で充電していれば、電力はまったく余裕だ。実際にはときどきほかの撮影車に乗るので充電間隔はさらに長く、電力不足に陥る気配すらない。ちなみに出先での急速充電はこの1カ月で5回。以前は居心地のいい給油所を探したものだが、近頃は使い勝手がよく、落ち着ける充電場所を探すのが面白い。編集部近隣のホテル椿山荘東京(40kW)は屋根もあり穴場。自分でも意外だが、すっかりEVにハマったみたいだ。
89号車の任期は1年の予定。EVに対する旧いクルマ好きの心の内が、これからさらにどう変化するのか。Iペイスの詳細なリポートと共に、お伝えしたいと考えている。
■89号車/ジャガーIペイスHSE
JAGUAR I-PACE HSE
新車価格 1183万円(OP込1365万9000円)
導入時期 2020年6月
走行距離 1万2282km(スタート時1万809km)
文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=山田誠人
(ENGINE2020年9・10月合併号)
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