ジープ・グランドチェロキーのフルラインナップ試乗会が山梨県八ヶ岳麓のホテルで開催された。V6モデルに乗って、地方移住を妄想した。
コロナ禍で働き方が大きく変わった。私の周りでも妻、息子、弟は、緊急事態宣言が解除された後もオフィスにほとんど通っておらず、業務は自宅のパソコンで行っている。社員が毎日出勤しなくても仕事が回るのであれば、高い賃料を払う必要がないと、東京オフィスを縮小したり、地方へ移転する企業も目に付くようになった。
地方移住。コロナ禍でこれを現実的に考えるようになった人は多いのではないだろうか。私も9月のシルバー・ウィーク連休に長野県信濃町が企画する“田舎暮らし体験”に申し込んだ。子供の手が離れた私にとって、地方移住はますます現実味を帯びてきているからだ。
そうなると、クルマ好きにとっての楽しみは“新天地で何に乗るか?”ということである。
“これなんか、いいんじゃないか?”八ヶ岳のワインディング・ロードをジープ・グランドチェロキー・リミテッドで走りながら思った。FCAジャパンが八ヶ岳麓のホテルを基地にジープ・グランドチェロキーのフルラインナップ試乗会を開催したのである。
ここでは3.6リッターV6を積むリミテッドを取り上げたい。( 6.2リッターV8+スーパーチャージャーを搭載し、最高出力710psを誇るモンスター、グランドチェロキー・トラックホークと、6.4リッター自然吸気V8の吹き上がりと加速のシンクロが気持ちいいSRT8についてはここをクリック)
3.6リッターV6の最高出力は290ps、V8モデルに比べるべくもないが、ドライブすると、加速フィールが滑らかでとても気持ちがいい。最大トルク347Nmは4000rpmで得られるが、リミテッドは3000rpmも回せばワインディングの上りでも痛痒を感じさせない。低速トルクが豊かで2200kgの車体をグイグイ加速する。
V8モデルよりも明らかにいいのは乗り心地だ。V8モデルではダダン、ダダン!と大きなショックがあった小海線の踏切をトトン、トトンと柔らかに通過した。V8モデルに感じたシャシーの弱さも、エンジン出力が低いせいかほとんど感じない。“オレ、エンジンよりシャシーが速いクルマが好きなんだよねえ”という清水和夫さんの言葉が頭を過った。強烈な加速が際立つV8モデルに比べ、こちらはスピードの高低にかかわりなく、気持ちいい。
別荘地帯へ通じる濡れた未舗装路も走った。こういうシーンがとりわけよく似合うのはジープ・ブランドだからだろう。悪路走破性の高さが自慢のブランドゆえ、リミテッドはスノー、サンド、マッド、ロック、そしてオートという5種類のドライブ・モードを備えている。日本のダートなど、オートで十分だと思うけれど、いざという時は安心だ。
ダートに入っても乗り心地の良さは変わらない。ステアリングの操作やスロットルの開閉に伴うクルマの反応も安定している。がさつさがないトルクの出方もこういう滑りやすい路面には向いている。試乗車はオプションのオールテレーン・タイヤを履いているので、ダートはほぼ無敵状態。そのわりに舗装路でのロード・ノイズが小さかったことも付け加えておく。
もし、長野県信濃町で冬を過ごすことになったら、グランドチェロキー・リミテッドは本当に心強いパートナーになるだろう。悪路だったら、ジープ・ラングラーの方が得意かもしれない。でも、月に2、3度は高速を飛ばして東京に行かねばならないだろう。そうすると、やっぱりグラチェロかな? などと、どんどん妄想は膨らんだ。
全天候型で、人も荷物もたくさん積めて、ラクチン。コロナ禍でマイカー移動が増えると、ますますSUVが売れるかもしれない。グランドチェロキーは524万円からと、ドイツ・プレミアム・ブランド勢と比べて安い。田舎に遊びに来た孫なんかをこれで迎えに行ったら、爺ちゃんカッコイイかも。
■ジープ・グランドチェロキー・リミテッド
駆動方式 フロント縦置きエンジン全輪駆動
全長×全幅×全高 4835×1935×1805mm
ホイールベース 2915mm
トレッド 前/後 1630/1635mm
車両重量 2200kg
エンジン形式 V型6気筒DOHC
総排気量 3604cc
最高出力 290ps/6400rpm
最大トルク 347Nm/4000rpm
変速機 8段AT
サスペンション 前 ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション 後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前&後 265/60R18
車両本体価格 659万円
文=荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=茂呂幸正
(ENGINE2020年11月号)
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