コロナ禍の重たい気分を吹き飛ばしてくれる、美しく、優雅で、速いオープンカーが、なんと日本から現れた。その名はレクサスLCコンバーチブル。さっそく借り出して、思い切り空気の吸える場所を目指した。
オープンカーには大きく分けてふたつのタイプがある、ということは、ENGINE読者はすでによくご存じだろう。コンバーチブルないしカブリオレと呼ばれる、2+2あるいはフル4シーターの乗用車のルーフを上げ降ろしできるようにしたオシャレなファン・カーと、ロードスターないしスパイダーと呼ばれる、初めからルーフがないことを常態とする、多くは2座の走りに特化したスポーツカーだ。今回レクサスLCコンバーチブルは、もちろん前者である。
コンバーチブルとは文字通り“転換できる”クルマということで、日常生活の中ではルーフを閉じて実用車として使っているものが、ひとたびルーフを開ければ、太陽の光とそよぐ風を楽しむための非日常のクルマに変身するところに、最大のアピール・ポイントがある。いってみれば、“ケ”(日常)と“ハレ”(非日常)のふたつの世界を自由に往還できるクルマということになる。
思ってもみなかったコロナ禍の襲来で重苦しい日々が続く中、これからの新しい日常生活に求められるクルマはなんだろうと考えている時、レクサスからLCコンバーチブルが発売されて、“コレだ!”と膝を打った。もっか私たちが置かれている閉塞した状況を打ち破るのは、見ているだけでうれしくなるくらい美しく、乗っているだけで気分がリラックスしてしまうくらい優雅で、それでいて積極的に運転を楽しみたくなるような速さとハンドリングの良さを持ったコンバーチブル・タイプのオープンカーしかない、と瞬時に確信してしまったのである。
その後、前号の表紙の撮影の時にスタジオで実車を目の当たりにして、LCコンバーチブルのスタイルの美しさと優雅さは十分すぎるくらい良くわかったけれど、走らせたらどうなのだろう。早く乗ってみたくて、ずっと機会をうかがっていたところ、8月のお盆明けにようやく広報車が用意されたという知らせが入った。
さて、このクルマにふさわしいロケ地はどこか。きれいな水とおいしい空気がある所がいい。ついでに、思いっきり走りを楽しめる道があったら、こんなにうれしいことはない。そうだ、会津磐梯山を目指そう。猪苗代湖で特集のトビラの写真を撮って、裏磐梯に一泊し、あのあたりのドライビング・ロードを走ったら、きっとこのクルマの真価が良くわかるだろう。というわけで、柏田カメラマンと二人、本当に数カ月ぶりで取材旅行に出かけた次第である。
東京から猪苗代湖までは、東北道と磐越自動車道を使って約280km。3時間半ほどのドライブだ。朝8時に会社で集合し、東池袋から首都高に乗って、東北道へと抜ける。高速道路では屋根は閉じたまま、“ケ”の日常スタイルで行くことにした。
走り出してすぐに感じるのは、さすがはレクサスのフラッグシップ・オープンカーと感心させられるスムーズな乗り味と幌屋根のクルマとは思えない室内の静けさだ。10段ATはまるで変速ショックを感じさせないから、今いったい何速に入っているのか、インパネで確かめないとわからない。いや、確かめる必要もないのだ。ただ任せていれば、最適のギアを常にいつの間にかクルマが選んでくれているのだから。足は硬すぎず柔らかすぎず、ノーマル・モードでは、ちょうど高速道路を気持ち良くクルージングできるくらいの硬さになっているようだ。2+2シーターの巨大な開口部を持つにもかかわらず、目地段差を越えてもミシリとも言わないボディ剛性の高さにも感心した。かなり入念な補強が施されているに違いない。
室内に聞こえてくるのは、21インチの巨大なランフラットタイヤが路面に触れて出すロードノイズと、そしてなによりも耳に心地よいのは、遠くから響いてくる自然吸気V8エンジンのクォーンというサウンドだ。回転を上げていっても、アメリカンV8のようなドロドロした音がすることはなく、もっとスッキリとした金管楽器を思わせる朗々としたバリトンの美声を響かせる。
それにしても、このクルージング時の快適さは特筆ものだ。コンバーチブル専用のデザインを持ったセミアニリン仕上げの本革スポーツシートは、表面は柔らかく、しかし芯はしっかりと体を支えてくれるし、室内の空調の効きも抜群で、シート自体にもベンチレーション・システムがついており、なんのストレスもなく長時間のドライブを楽しむことができる。冬には標準装備のシート・ヒーターやネック・ウォーマーが重宝するに違いない。
そうやって気持ち良さを味わっているうちに、あっという間に猪苗代湖に着いてしまった。一息ついてルーフを開けると、まぶしい太陽の光やおいしい空気とともに、水の香り、緑や稲穂やススキの匂いがいっぺんに室内に飛び込んできた。台風一過の空には雲ひとつなく、空気が澄んでいるためなのだろう、東京で見る空とはまるでカラー・パレットが違うように突き抜けた青さが広がっている。日常から解き放たれ、非日常のトビラを開けて、“ハレ”の世界に足を踏み入れた瞬間の爽快感。これを味わいたくて、東京からルーフを閉じたままずっと走ってきたのだ。ここまでやってきて、しかも、これがオープンカーで本当に良かった、と心から感謝する気持ちになった。
まずは湖のほとりで、特集トビラ用の写真を撮影。それを終えると、裏磐梯へ向かう山道を上がっていくことにした。これからがオープン・ドライブの本番だ。
裏磐梯へ向かう緩やかなカーブが続く上り坂を、オープンにしたLCコンバーチブルで上っていく時の気持ち良さは、ちょっと言葉では伝えられないくらい素晴らしいものだった。ドライブ・モードはスポーツがちょうどいい。足が少し硬くなり、ステアリングの遊びも減って、切り込んでいくと速すぎず遅すぎず、思った通りリニアにノーズが内に入っていってくれるから、運転していて常にクルマとの一体感を感じることができる。
自然吸気の5LV8はかなりの上り坂でも余裕綽々で、右足に少し力を込めるだけで2トンを超えるボディを軽々と押し出していってくれるのだが、その時の吸気音と回転音、排気音が合わさって奏でられるサウンドが、まるでオーケストラの演奏を特等席で聴いているようで、これは間違いなくオープンならではの楽しみだと思った。さらに踏み込んでいけば、高回転域まで澱みなく回りたがるエンジンであることは少し試してわかっていたけれど、私はこれ以上飛ばしたいとは思わなかった。それよりも、ちょうどいい強さの風に吹かれながら、エンジン・サウンドを楽しみ、クルマとの一体感を味わっている方が、このLCコンバーチブルの性格にも、そして何より今の私の気分にも合っているように思ったのだ。
裏磐梯に到着して、様々な場所で走りや置きの撮影をした。コンバーチブルとは良く言ったもので、このクルマはルーフを開けた時と閉じた時では、ずいぶんと印象の違うクルマになる。閉じた時には、硬質な金属のボディとその上にちょこんと載った柔らかなソフト・トップとのコントラストが、ややクラシックで優雅な印象を醸しだす。そこから15秒でオープンに変身すると、ソフト・トップは完全にトノー・カバーの下に仕舞われて見えなくなり、モダンなオープン・スポーツカーの面が強調される。とはいえ、オープンカーにおいては内装も外装の一部であるという哲学に基づき、ディテールまで徹底的に磨き上げられたインテリアのデザインは、どんなオープンカーとも違う独特のテイストを持っていて、それはやはり優雅としかいいようがないものだし、オープンにした姿を真横から見ると、ドアの後ろでキュッと上がったベルト・ラインから再びリア・エンドで跳ね上がるスポイラーにかけての長いトランクリッドのデザインが、全体のモダンなテイストの中に、ややクラシックで優雅な印象をもたらしている。私はオープンにして斜め後方から見た時の姿が、一番美しいと思った。
翌日は浄土平まで行って硫黄の匂いをさんざん嗅いだり、峠道をスポーツ・プラス・モードにして攻めてみたりもした。スポーツ・プラスにすると、アクセレレーターを抜いたり、シフトした時に驚くほど派手なバックファイヤーのような音を響かせるのには面食らった。このクルマには、こういう演出はあまり似合わないと思う。あくまで優雅に、でも少しだけスポーティに、どこまでも走り続けたくなるオープンカー。今の気分にピッタリなクルマだ。
■レクサスLC500コンバーチブル
駆動方式 エンジン・フロント縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4770×1920×1350mm
ホイールベース 2870mm
トレッド(前/後) 1630/1635mm
車両重量 2050㎏(前軸1070kg:後軸980kg)
エンジン形式 V型8気筒DOHC直噴+ポート噴射
排気量 4968cc
最高出力 477ps/6000rpm
最大トルク 540Nm/4800rpm
トランスミッション 10段AT
サスペンション(前) マルチリンク/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(試乗車) (前)245/40RF21、(後)275/35RF21
車両本体価格(税込み) 1500万円
文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=柏田芳敬
(ENGINE2020年11月号)
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