女性2人の恋愛を情熱的に描いたフランス映画が公開される。カンヌ国際映画祭でも大きな話題を呼んだ、圧倒的な映像美の魅力とは?
美術界における女性の活躍は20世紀に入るまで限定的なものだったが、18世紀のフランスでは多くの女性画家が肖像画を手掛けていたという。とはいえマリー・アントワネットの知己を得たエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランや、ゲーテと親交のあったアンゲリカ・カウフマンなど、美術史に名前を残したのはほんの一握り。ほとんどの女性は名声を得ることなく、無名のまま終わっている。
本作のヒロイン、マリアンヌもそんな一人。展覧会に出品するにも父親の名前を借りなければならない彼女は、ブルターニュ地方の孤島に暮らす伯爵夫人から娘、エロイーズの肖像画制作を依頼される。だがその注文は風変わりなもので、娘には自分が画家であることを決して明かしてはならないこと。あくまで散歩相手として接し、肖像画も隠れて仕上げてほしいというものだった。望まぬ結婚を控えたエロイーズは、周囲の人々に心を閉ざしており、前任の画家にも一切、顔を見せようとしなかったのである。
ミステリアスな設定で始まる本作の物語は、やがて女性2人の情熱的な恋愛譚へと発展していく。エロイーズの複雑な内奥を肖像画で表現すべく、絶えず彼女の表情を観察し続けるマリアンヌ。一方、母親の目論見を知ったエロイーズも、自らモデルとなることを決意し、絵筆を握るマリアンヌの姿を直視するようになる。“観る”という行為から生まれる2人の新たなる関係。その過程がきわめてスリリング、かつ官能的だ。
岩肌に打ちつける荒波や、海風が揺らす草原の緑、暖炉の明かりに照らされる召使、足元の焚火が浮き彫りにするエロイーズの妖しい立ち姿など、すべての場面が計算された構図、トーンで作られているのもこの作品の大きな特徴だ。まるで映画全体が、連続した油絵のように見えてくるのである。監督は本作でカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞したセリーヌ・シアマ。美術史から消された女性たちにはもちろん、絵画芸術そのものにオマージュを捧げた、奇跡のように美しい作品だ。
『燃ゆる女の肖像』は12月4日(金)TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開
文=永野正雄(ENGINE編集部)
(ENGINE2021年1月号)
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