GTとの言葉から、本誌読者は何を連想するだろう? 高速クルージングが得意なセダンやクーペ、あるいは本格的なスポーツカー、それとも市販車ベースのレースであろうか。
パルミジャーニ・フルリエの新コレクション「トンダ GT」は、読者がGTから想起するスポーティさや高性能を兼ね備える。目指したのは、ゴルフにも役員会議にも使えるデイ リーウォッチ。そのために既存モデルの多くに共通するエレガントさやドレッシィさとは異なる、アクティブなデザインが与えられた。
メゾンに新風を吹き込んだのは、名だたる時計ブランドのアイコンをいくつも生み出してきた時計デザイナー、ディノ・モドロ氏である。初の外部デザイナーが手掛けたにもかかわらず、パルミジャーニ・フルリエの時計だとすぐに気付かされるのは、ブランドの主である時計師ミシェル・パルミジャーニ氏がデザインしたモデルをベースにしているから。
ケースの基となったのは、同じトンダ・コレクションのクロノール。そのラグをより立体的かつ力強く再編集し、ブレスレットやラバーストラップと完全に一体化するスポーテ ィな外観を創出してみせた。そしてトリック・コレクションで用いるベゼルのローレット加工を引用し、クラシカルな印象も、併せ持たせた。さらにダイアルは、ひし形パターンが連なる伝統的なクル・トリアンギュレールのギヨシェを施して、エレガントさを醸し出している。
これらケースとブレスレット、ダイアルは、すべてが自社製。そこに潜むムーブメントも、同様である。パルミジャーニ・フルリエは、時計の外装やムーブメントにかかわる、 いくつもの工房を同じグループ傘下に持ち、ヒゲゼンマイまでも自社製造を可能とする。ムーブメント製作を担うのは、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ社。顧客にはエルメスやリシャール・ミルなどが名を連ね、技術力の高さには定評がある。
同社は新コレクションのために、2つの高性能ムーブメントを用意した。「トンダグラフ GT」が積むキャリバーPF043と、「トンダ GT」用のPF044だ。それぞれ備わる機構は異なるのに、シースルーバックから見えるムーブメントに違いが見当たらないのは、ベースとなるキャリバーが同じだから。
自動巻きローターは、比重が高く回転効率に優れる22金製。ブリッジは放射状のストライプ装飾が施され、またパーツの仕上げも上質である。テンプは4つのマスロットで歩度調整するフリースプラングで、耐衝撃性に優れ、スポーツウォッチにふさわしい。
トンダグラフ GTは、このベースキャリバーに、2007年から用いるクロノグラフ・モジュールをダイアル側に重ねた。さらに1年に1度、3月1日にだけ調整すればいい、アニュアルカレンダーも統合し、実用性が高い多機能に進化させた。そしてベーシックなトンダ GTには、ビッグデイトが備わる。
共通のベースキャリバーを採用することで、同メゾンのモデルとしてはかなり価格が抑えられた。特にトンダグラフ GTは、戦略的な価格設定とし、ラグジュアリー・スポーツウ ォッチ市場に、一石を投じた。
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文=髙木教雄 写真=近藤正一
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