待望の新しい自然吸気フラット6を搭載した718ケイマン&ボクスターGTS4.0が上陸。987ボクスターと981ケイマンの2台を13年ほど乗り継いだ渡辺敏史と編集部員の3人が箱根で718スパイダー&718ケイマンGT4とともに試乗し、語り合った。
上田 911に続く国内試乗篇、2番目は718スパイダー&ケイマンGT4と、新たにシリーズに加わったGTS4.0の2台です。
村上 いやぁ、何はともあれこの4台はエンジンでしょ。始動の瞬間から「ワォ!」っていう感じはGTS4.0の2台も同じだった。サウンドといい、暖機しながら徐々に踏んでいった時の感じといい、やっぱり自然吸気フラット6はいい。しかも今回の4台はすべてMT。この組み合わせはもはやポルシェの全ラインナップの中でもGT3の一部にしかない。絶品中の絶品なのに、今や絶滅危惧種といってもいい存在。
渡辺 まさに戻ってきてくれた、って感じですよ。
村上 718スパイダー&ケイマンGT4が出た時のGTSは2.5Lのフラット4ターボだった。まさかそれが自然吸気フラット6に変わるとは、夢にも思わなかった。
渡辺 5年前、ボクスターからケイマンに乗り換えたとき、なんとなく頭の片隅には今のうちに乗っておかないと、という思いはありました。
村上 投資、狙った?
渡辺 いやいや全然全然。
上田 村上さんも自然吸気フラット6のボクスター持ちですよね?
村上 ボクが買った時はこのエンジンがなくなるなんて誰も思ってなかったからね。それはさておき、ポルシェは罪作りだと思うよ。
上田 それ、昔からですけどね。
渡辺 速さだけじゃないサムシングがみんな欲しいわけじゃないですか。ことさらボクスター&ケイマンを買う人はその傾向が強いと思います。確実にフラット4ターボが速くても、それじゃないんだよね、っていう感じはやっぱりありました。
新井 ボクはシャシーの善し悪しでクルマの好き嫌いが分かれる方で、フラット4ターボも力強くて速くて、これでいいじゃん、ってずっと思っていた。でも新しい自然吸気フラット6に乗って思いました。あぁ、さらにいいんだ! って。特にサウンドと振動の感じ。これがポルシェだ! って再認識しました。
渡辺 たぶん大きな違いは音と振動と粘り。この4台は車格に対してエンジンのキャパシティが大きいせいもありますが、1000回転くらいからでもレスポンスがいい。こういうフレキシビリティはフラット4ターボではきつい。
上田 元々がフラット4ターボでそれが進化して自然吸気フラット6になったのなら順当な進化と割り切れたかもしれませんが、逆でしたからね。
渡辺 とはいえその間に変化したこともあって、それがこのエンジンが産まれた理由でもあるんだけど。燃費計測の方法がWLTPに変わって、高負荷領域が全体のモードの中で占める割合が大きくなった。そうするとターボのメリットが減った。
村上 そこが理由としては半分かな。気筒休止を追加するなど涙ぐましい努力をしている。高速巡航をしているとすぐに3気筒になるよね。
上田 前回の座談で間違ってしまいましたが、アイドル・ストップをオフにすると気筒休止もオフになる。
渡辺 おとなしく100km/h巡航で走れば15km/Lくらい走る。
村上 そういうことをやりながらGTS4.0でも7800回転まで使えるエンジンを完成させてきた。
上田 スパイダーとGT4は8000回転まで。何か違うんですか?
渡辺 エンジンのハードはまったく同じでソフトが違う。20psの差はほとんど分からないけど、スパイダーとGT4の方が最後のトップエンドの、ギリのギリのところで、すっと伸びやかさがあるというか。
上田 基本は4台が同じ線上にあるとはいえ、ちゃんと違う。
渡辺 お金を取れる内容にはしてある。シャシーまわりもそうですね。
村上 例えば718ボクスターGTS4.0と718スパイダーって、車検証重量は、むしろ718スパイダーの方が重い。それなのにずっと軽快な感じがする。遮音材が減ってストレートに伝わってくるものがすごくある。
上田 幌が簡易になって上屋が軽いんですが、それだけじゃない感じ。
村上 スパイダー以外の3台はセラミック・ブレーキ付きだったから重さを相殺しているはずなのに、スパイダーが一番軽く感じた。脚の剛性感もスパイダーとGT4の方が明らかに上。911GT3から流用できるものは全部流用しているからね。
渡辺 それであの乗り心地だから、たいしたものですよ。この4台の選択は難しいですね……ボクはケイマンだったらGT4、屋根開きだったらGTSかな。ちょっと肩の力を抜きたい。幌もめんどくさそう(笑)。
村上 以前のスパイダーに比べれば格段に進化しているけどね。
新井 4台の差はすごく大きいわけじゃないけど性格はハッキリ違う。
渡辺 どれくらい趣味を託すかによって変わるよね。
上田 ボクはやっぱりここまで割り切ったか、という思いを込みでスパイダーですね。GTSは普段から使えてしまって、なんだか逆にもったいない気がする。
新井 GTSはお手頃だけど、乗るとスパイダーやGT4もいい。昔の空冷の911を思い出しました。
渡辺 確かにそういうものはあるかも。
新井 ちょっと硬くて、ちょっとうるさくて振動があって。だけどそれがクルマとの一体感に繋がっているというか。空冷から離れられない人も意外と満足しちゃうかも。
村上 ボクは自分でお金を出して買うなら718ケイマンGTS4.0。
新井 あ、自分でお金出すならボクもそっちです(笑)。
村上 GT4はやっぱりサーキット向きで、普段公道で気持ちよく乗るにはトゥーマッチだし。スパイダーも普段使いにするにはやっぱり面倒で、特別感がありすぎる。GTS2台でどっちかとなると、オールマイティさでケイマン。サーキットもいけるし、室内にエンジンが自分と一緒にいるから、音がすごく聞こえるんだ。機械のきれいな音が聞こえてくるの、好きなんだよね。
渡辺 911GT3のエンジンはめちゃくちゃすごいけど、もうひゅんひゅん回るだけ。でもこのGTSのエンジンはちょっと古風というか、振動とかそういうものが不快じゃない程度にまぶされていますよね。
村上 ボクの持っている2.7Lのボクスターとは違って、ちょっとドライな感じがする。
渡辺 すごくわかります。ボクもキャラクターとしてはポート噴射の987時代の方が好きですけど。
村上 MTで操って、いろんな回転数の音の表情を聞くのが楽しい。
上田 5000回転位からしゅーっと集約するあの感じがたまらない。
渡辺 MTで乗るなら、GT3のエンジンより適していると思います。
新井 この昔から使っている6段MT、フィールもいいですしね。
村上 どんどん良くなっている。
渡辺 スパイダーとGT4はたぶんショート・ストローク・シフター入りで横方向の精度がカチッとしています。でもGTSでも全然十分。ただこれより馬力が上がると、もうMTって話じゃないってことになる。
上田 全車PDKの設定もありますが、皆さん選んだクルマで組み合わせるのは?
一同 MT!
渡辺 自分がコミュニケーションできる範囲ではこの辺りがギリギリ。
村上 クルマ好きなら一度は経験して欲しい。いまコロナ禍の中でリアルとバーチャルの話がクローズアップされているけど、リアルで乗らないと絶対この自然吸気フラット6とMTの味わいは分からない。でもちょびっとでも乗ればすぐ分かるよ。
上田 さて今後のボクスター&ケイマンですが、GTS4.0が出てスケジュールが少し狂ったかも。今までスパイダーやGT4が出ると、そろそろ次期型の噂が出たんですが。
渡辺 オレはもう本当にこのエンジンが911に乗って欲しい……。
上田 え? そっちの話?
渡辺 今のラインナップのヒエラルキー的にどこに入るかっていう問題はあるけど。ターボがない分軽いということで911Tで出すとか。
上田 でも718に追加の“T”はフラット4ターボでしたよ。
村上 じゃ“E”の復活とか。
上田 GTSだったら整合性がいいんじゃないですか。今後GTSは自然吸気でいく、みたいな。
村上 ポルシェは罪作りなメーカーだけど、すべて理由がちゃんとある。それはマーケティング。とにかくユーザーの声をよく聞いているからね。911にだってこの自然吸気フラット6が載ることはあり得る。
上田 でもモーター付きかも……。渡辺 可能性はありますね。
村上 そうなると今回の自然吸気フラット6とMTの組み合わせはいよいよ絶滅危惧種だね。いずれにせよ、ポルシェはどんどん変わってきたけど、変わっていないものもある。そのバランスが絶妙だよ。
渡辺 だから村上さんが言われたように、やっぱりお客さんをよく知っている。このエンジンは確かに半分はWLTPが理由かもしれない。でも残り半分は「4気筒ターボ、なんや嫌われとるけど、そら、うちらだって分かってんで」みたいなね。
村上 そういう時、ちゃんと対応できる引き出しがあるんだよ。
渡辺 911の3Lフラット6ターボもいいんですが、伸びやかさと気持ちよさではやっぱり自然吸気には敵わない。あと、4Lの排気量が直噴のか細いところも補ってくれているのではないかと思います。
新井 よくいうアクセレレーターの裏がタイヤに直結しているみたいな、まさにそういう感じがこの4Lの自然吸気フラット6にはある。
渡辺 911の話に脱線しちゃったけど、個人的にはGTS4.0の登場で、見事ボクスターとケイマンは復活した! って感じです。
村上 本当に、本当にそうだね。だって、まさに夢見ていたものが戻ってきてくれたんだからさ!
話す人=渡辺敏史+村上 政(ENGINE編集長)+新井一樹(ENGINE編集部)+上田純一郎(ENGINE編集部、まとめも) 写真=望月浩彦
■718スパイダー
駆動方式 ミドシップ縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4430×1825×1260mm
ホイールベース 2485mm
車両重量(前後重量配分) 1450kg(前軸630kg:後軸820kg)
エンジン形式 水冷水平対向6気筒DOHC
排気量 3995cc
ボア×ストローク 102×81.5mm
最高出力 420ps/7600rpm
最大トルク 420Nm/5000-6800rpm
トランスミッション 6段MT
サスペンション(前) マクファーソン・ストラット+コイル
サスペンション(後) マクファーソン・ストラット+コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 245/35ZR20/295/30ZR20
車両本体価格(10%税込) 1271万円
■718ボクスターGTS 4.0
駆動方式 ミドシップ縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4390×1800×1270mm
ホイールベース 2475mm
車両重量(前後重量配分) 1440kg(前軸650kg:後軸790kg)
エンジン形式 水冷水平対向6気筒DOHC
排気量 3995cc
ボア×ストローク 102×81.5mm
最高出力 400ps/7000rpm
最大トルク 420Nm/5000-6500rpm
トランスミッション 6段MT
サスペンション(前) マクファーソン・ストラット+コイル
サスペンション(後) マクファーソン・ストラット+コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 245/35ZR20/265/35ZR20
車両本体価格(10%税込) 1140万円
■718ケイマンGT4
駆動方式 ミドシップ縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4455×1825×1270mm
ホイールベース 2484mm
車両重量(前後重量配分) 1450kg(前軸630kg:後軸820kg)
エンジン形式 水冷水平対向6気筒DOHC
排気量 3995cc
ボア×ストローク 102×81.5mm
最高出力 420ps/7600rpm
最大トルク 420Nm/5000-6800rpm
トランスミッション 6段MT
サスペンション(前) マクファーソン・ストラット+コイル
サスペンション(後) マクファーソン・ストラット+コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 245/35ZR20/295/30ZR20
車両本体価格(10%税込) 1293万円
■718ケイマンGTS 4.0
駆動方式 ミドシップ縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4405×1800×1285mm
ホイールベース 2475mm
車両重量(前後重量配分) 1440kg(前軸640kg:後軸800kg)
エンジン形式 水冷水平対向6気筒DOHC
排気量 3995cc
ボア×ストローク 102×81.5mm
最高出力 400ps/7000rpm
最大トルク 420Nm/5000-6500rpm
トランスミッション 6段MT
サスペンション(前) マクファーソン・ストラット+コイル
サスペンション(後) マクファーソン・ストラット+コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 235/35/ZR20/265/35ZR20
車両本体価格(10%税込) 1101万円
(ENGINE2021年1月号)
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話す人=渡辺敏史+村上 政(ENGINE編集長)+新井一樹(ENGINE編集部)+上田純一郎(ENGINE編集部、まとめも) 写真=望月浩彦
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