2021.01.16

CARS

新型ポルシェ911ターボがついに上陸! ターボSカブリオレを中心にカレラ4カブリオレ、カレラS、カレラの4台の911に乗った

素の911カレラ系のエンジンがすべてターボ化されて以降、その存在感をどう発揮すべきか模索していたようにみえた“ターボ”が日本に上陸を果たした。“911の象徴”はどう変わり、どう変わらなかったのか。

村上 今回は「ポルシェ、変わるものと変わらないもの」というテーマで、このパートでは最新の992型911を4台連れ出して、箱根にやってきました。まず言いたいのは、911を見れば、ポルシェの変わるものと変わらないものが解るということ。最新の911にはまさにポルシェの最新の技術や知見がすべて入っていて、且つ911だけに過去の遺産も継承している。その歴史を紐解けば、ポルシェがどう変わってきたか、変わってこなかったかが解るというわけで、今回は初出になる911ターボSカブリオレを中心に、そこを見ていきたいと思うんだけど。


島下 僕は911の中でもGT3のようなモデルが好きで、実はターボはこれまで買いたいと思ったことは一度も無かったんですよね。けれど今回は、乗ったら本当に驚いて。何やらスゴいものに乗っているという感じ、ある種の緊張感というか、そういうものにシビレました。それで思い出したのが、そう言えば997ターボが出た時にも同じようにびっくりしたんだよなってことで。



村上
 997ターボって前期型のことだよね? いや、あのターボは確かにスゴかったよ。僕はね、スペインの南の方で開かれた試乗会で初めて乗った時にホントにぶっ飛んだ。

島下 一体何がササッたんですか?


村上 996のターボってわりと旦那グルマっていうか、乗り心地も良くて超高級GTカーだったんだよ。それが997のターボになったら突然、男っぽいケモノ感を取り戻して。ホント後ろに猛獣を飼っているみたいで、ガオーッ!って後ろから襲いかかられるんじゃないかっていうぐらいスゴかった。それでいながら四駆で安定感抜群でさ、実はその時、ペアを組んだ人が300km/h出したんだよ。996では僕も290km/h出したことがあったんだけど、そこから先って風の抵抗でなかなか行かない。でも997ターボはその壁をあっさりヒョイッと越えてね。すごい男っぽいポルシェ・ターボが帰ってきたって思ったんだよね。




島下 僕にとって今回のターボは、まさに同じような感覚ですよ。996ターボは初めてティプトロニックが用意されたこともあって、きっとそれまでとは違う層の人がいっぱい買ったんですよね。それで古くからの硬派なターボのファンが「ちょっと違うんじゃない?」となっていたところに、改めて「911ターボに期待するのって、こういうのでしょ?」と示すかの如く997ターボが出た。そんな風に思っていて。今回に関しては、991の後期でカレラまでエンジンはターボ付きになった。それでターボの有難みってどこにあるの? って皆なったわけですよね。

村上 なった、なった。うん。

島下 そこでもう1回、ポルシェが911ターボという名前のクルマを出す時には、こういうものになるんだというのを見せつける。そして911ターボを再定義する、そういうクルマなのかなと思ったんですよね。


究極の911

塩澤 ターボの改変の歴史って、ラグジュアリーになろうと思ったらやりすぎて旦那グルマになっちゃって、戻さなきゃって硬派に振られてというのを繰り返してきた。でも再定義というのは新しい見方ですよね。ただ一方に振れては揺り戻してという単純な話ではなくて、ポルシェ自身がターボの位置付けをどうするかというのを真剣に考えたということであれば、興味深い話だな。

島下 ここのところ、GT3が911の究極っぽく見られていた気がするんですが、911ってそもそも快適性が高く、高速クルーザーでありつつもサーキットに行けば圧倒的なスポーツ性を発揮するというのが本筋で。だとしたら911ターボこそがその究極で、GT3はちょっと偏った存在なんですよね。今回は特に試乗車がカブリオレだったから、そういう部分が一層出ている。

塩澤 そうだね。まさに満漢全席って感じ(笑)。

村上 実は僕は初めて都内で乗った時、あまりによく躾けられたクルマなので逆にびっくりしたんです。むしろ乗り心地なんてカレラよりも良くなってない? って逆に拍子抜けして。それが箱根の山の中で乗ったら途端に豹変してスゴい男っぽいクルマになって、まさに「君子豹変す」みたいなクルマだよね。

島下 快適性も伸ばすぞ。男っぽさ方面も伸ばすぞって、全方位に。

村上 再定義って、そこだと思うんだよね。ラグジュアリーなところは押さえた上で、物凄い男っぽいところをバァーンとやってきた。男っぽくなったという意味では、991カレラの後期型のエンジンがターボになった時に、音とかもおとなしくなって、だいぶ旦那性が出てた。それを今回、男っぽさをもう1回出そうっていうのが992型のテーマだったというのはデザインからしても間違いないんだよ。

島下 911ターボもそうで、991型のは音がおとなしいっていうのは、言われてたんですよね。


村上 996の時と同じような状況だね。996のターボが出て、それがわりとおとなしくて、それが997になってドンッ!って男っぽく戻した。実はポルシェというブランドには、ふたつの大きな要素があると思うわけ。ひとつは大エンジニア集団としてのポルシェ。機械をひたすら良くしようとしている人たちですね。その一方で、ポルシェにはマーケティング集団という部分がある。物凄い綿密なマーケティングを常にやっていて、それによって、こういう味付けにしよう、ああいう味付けにしようというのが常に変わってくる。それが振り子のようになる時もあるけれど、そのうちにしっかり一段レベルの高いところにフェイズが上がっていくっていう。そういうことを繰り返してきた気がする。

炸裂するターボ・エンジン

島下 996ターボは、速くて快適でティプトロニックということでユーザー数を思い切り増やしたわけですよね。996自体もマニア的には色々言われたけれども、実はそれまでで一番売れた。


村上 だけど空冷の人がグチグチ文句を言ってくるからさ(笑)、ちゃんと997の時に、またしっかり良くしていって。

島下 そうやって文句の出たところに応えていくと、いつしか一段上のレベルになっていて。ちゃんと変わっているし、でも本質は変わっていない。そんな911の頂点、象徴が911ターボだということですね。

塩澤 911ターボを再定義するという意味で言うと、そのターボ・エンジン、どうなんですか?



島下
 911カレラのエンジンは、ターボであることをなるべく見せない。隠して、まるでNAエンジンかのような振る舞いをする。逆に911ターボのエンジンは「ターボでござい」と思い切り主張している。炸裂する音、多少のラグがあっても一気に盛り上がるトルク、圧倒的なパワーとか。だから同じターボチャージャーというものを使っていても、方向性は別物。その振り切れ具合が尋常じゃなくて、911ターボのエンジンは思い切りターボらしい。

塩澤 炸裂するよね、まさにね。演出といえば演出。でも、さっきのマーケティングの話じゃないけれど、そういう要素をよく考えてあって、「これでしょ!」って言わせる演出をちゃんと作り上げてくる。


村上
 そういうのをあまりに厳めしく、真面目にやるもんだから、常にちょっとやり過ぎるんだよ。だからやり過ぎた分、次のやつは「もう少し、旦那が乗るようにしてくださいよ」って話になっておとなしくしてってことの繰り返しになる。



島下
 その意味では、まさにその時々で必要なこと、やるべきことをやっているんだとも言えますね。


スゴいという意味の記号


村上
 今回の911ターボは作るの本当に大変だったと思いますよ。やっぱり素のカレラから全部がターボエンジンになった中で、じゃあ911ターボの911ターボたる所以って何よ? というのが問い直されるところに来ていたんだから。


島下
 性能だけではもはや満足してもらえない世界で、何を作れば911ターボになるのか。これ、スゴく考えたでしょうね。


塩澤
 911ターボっていったら元祖スーパーカーですから。その存在意義をポルシェとしては改めて作り込む必要があったでしょうね。


村上 今や911カレラSだって十分スーパースポーツカーの領域に入っている。それだけに、じゃあターボって何? が問われる。昔は本当にエンジンにターボチャージャーがついているからターボだったわけだけど、もはやターボはスゴいという意味の記号。だって電気自動車のタイカンがターボとかターボSとかって言っているんだからね。


島下
 村上さん、タイカンの発表の時にポルシェAGの人に「ターボはおかしい」って噛み付いてましたよね(笑)。でも、まさにポルシェにとってターボというのは、もはやターボチャージャーが付いているという意味じゃない。だからこそ今回の911ターボは、タイカン・ターボがなぜターボを名乗るのかという答えを見せるものでもあった。


村上 そこで見せられなかったら、辞書に意味が書いていない言葉みたいになっちゃうわけで。定義付けをする原点としてのモノを見せないといけない。その答えを出してきたのが今回の911ターボでありターボSなんだっていうことだよな。いやあ、旦那も満足、走り屋も満足っていう幅の広さが半端無いよ。ちょっと参ったという感じ。とは言え、いいクルマだったよ、他の3台も。


塩澤
 良いクルマですよ、そりゃ全部。素のカレラだって十分に男っぽいし。


島下
 ターボSから乗り換えても、これはこれでやっぱり楽しい。


村上
 それぞれの味がありましたよ。カレラ4カブリオレも、ターボのちょうどいい版くらいな感じだよね。


塩澤
 フツウの人にとってはあれでも十分炸裂しているからね(笑)。安定感抜群でオールシーズン、屋根を開けても閉めても使えて、どんな天候だっていい。万能車だと思いますよ、あれですでに。


島下 ターボには無いものがあるとしたら軽やかさですかね。乗っていてもそうだし、見た目にも。ターボはやっぱり肩肘張っているというか。


塩澤
 あれだけのパワーがあると、それなりの武装をしなくちゃならないじゃん。隠そうとしてもね。


島下
 その点、カレラ4カブリオレは気軽に楽しめる。


村上 
ちょうどいい感あるよ。それからカレラSは、とにかくスポーティに走りたいんだっていう人には、いいと思うんだよね。


島下
 他のスーパースポーツを経験している人には、カレラよりカレラSですね。エンジンの速さもそうですが、PTVが大きい。これが911かというくらい、よく曲がる。


村上 
そういう制御がスゴく良くなったよね。ウェットモードもそうだけど、本当にイヤな感じがしない。



島下
 911らしい価値を変わらず維持し続けるためには、貪欲に新しいことを採り入れていく。逆に言うと、新しいものを採り入れていく時には、自分たちが何を作りたいのかをはっきりさせておかないといけない。やっぱり911ほどそれがクリアなクルマはなかなか無いですよね。そして、それがポルシェという会社の象徴であるならば、ポルシェ全体が大体そうなんじゃないかと。


塩澤
 911がポルシェ哲学の一番のコアであることは間違いないよね。


村上
 911がいろんな壁を全部ブレイクスルーしてきたわけですよね。RR特有のトリッキーさを何とかしようと四駆を作って、今や二駆と運転感覚はほとんど変わらなくなった。そして小さなエンジンで大排気量と戦うためにターボを開発して、ここまで仕上げてきた。PDKだってそう。MTより安全に速く走るためにはどうするかと考えた。そういう1つ1つの壁を全部、911が打ち破ってきた。まさにその集大成が911ターボSカブリオレだっていうことだよね。

話す人=島下泰久(まとめも)+村上 政(ENGINE編集部)+塩澤則浩(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦

■911ターボSカブリオレ

駆動方式 リア縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4535×1900×1301mm
ホイールベース 2450mm
車重 1785kg
エンジン形式 直噴水平対向6気筒ツイン・ターボ
排気量 3745cc
ボア×ストローク 102.0×76.4mm
最高出力 650ps/6750rpm
最大トルク 800Nm/2500-4000rpm
トランスミッション 8段自動MT(PDK)
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式セラミック・ディスク
タイヤ(前/後) 255/35ZR20/315/30ZR21
車両本体価格 3180万円


■911カレラ

駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4520×1850×1290mm
ホイールベース 2450mm
車重 1530kg
エンジン形式 直噴水平対向6気筒ツイン・ターボ
排気量 2981cc
ボア×ストローク 91.0×76.4mm
最高出力 385ps/6500rpm
最大トルク 450Nm/1950-5000rpm
トランスミッション 8段自動MT(PDK)
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式セラミック・ディスク
タイヤ(前/後) 245/35ZR20/305/30ZR21(オプション)
車両本体価格 1398万円


■911 カレラ4 カブリオレ

駆動方式 リア縦置きエンジン4 輪駆動
全長×全幅×全高 4520 × 1850 × 1300mm
ホイールベース 2450mm
車重 1630kg
エンジン形式 直噴水平対向6気筒ツイン・ターボ
排気量 2981cc
ボア×ストローク 91.0×76.4mm
最高出力 385ps/6500rpm
最大トルク 450Nm/1950-5000rpm
トランスミッション 8段自動MT(PDK)
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式セラミック・ディスク
タイヤ(前/後) 245/35ZR20/305/30ZR21(オプション)
車両本体価格 1729 万円


■911 カレラS

駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4520 × 1850 × 1290mm
ホイールベース 2450mm
車重 1540kg
エンジン形式 直噴水平対向6気筒ツイン・ターボ
排気量 2981cc
ボア×ストローク 91.0×76.4mm
最高出力 450ps / 6500rpm
最大トルク 530Nm / 2300-5000rpm
トランスミッション 8段自動MT(PDK)
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式セラミック・ディスク(オプション)
タイヤ(前/後) 245/35ZR20 / 305/30ZR21
車両本体価格 1729 万円

(ENGINE2021年1月号)

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話す人=島下泰久(まとめも)+村上 政(ENGINE編集部)+塩澤則浩(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦

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