内田誠社長が就任して1年。復活に向けた日産の戦略を探る。
2018年11月に当時のカルロス・ゴーン社長兼CEOが逮捕され、後を承けた西川廣人社長兼CEOも報酬問題で2019年9月に辞任。そして12月に現在の内田誠社長兼CEOが就任すると、その直後に保釈中だったゴーン容疑者が国外逃亡を図ってと、ここ数年の日産は揺れに揺れた。経営に与える影響は当然大きく、2020年5月に明らかにされた19年の通期決算ではリーマンショック時以来の赤字を計上。日産に浮上のチャンスはあるのか? と誰もが訝しい思いを抱いたのは当然だろう。
日産はまさにこの決算発表の際に事業構造改革計画「NISSAN NEXT」を発表した。内容は、拡大し過ぎた生産能力の削減、商品ラインナップの絞り込みなどが中心の、言わば身の丈に合った経営を志向するものだったわけだが、その最後にサプライズが待っていた。「NISSAN NEXT A-Z」と題された今後投入予定の新型車を紹介する動画が公開され、その最後の“Z”として次期型フェアレディZの存在が明らかにされたのである。
その後、7月には2021年発売予定の“A”、すなわち新型EVのアリアが、そして9月にはZプロトタイプが相次いで発表され、日産復活の機運、目下じわじわと演出されつつある。さて、日産の復活、本当に実現できるだろうか?
課題は山積みだが、一番のカギはやはりいかに魅力的な商品を出すことができるかということだろう。もちろん、それは販売の引き上げに直結するわけだが、実は社内に活気をもたらすという意味合いも小さくない。
内田社長は過去何度かの会見で「日産はこんなもんじゃない」という言葉を使っている。復活への道のりは、台数や決算などの数字で見せるより商品で見せる方がはるかに響きやすい。それはユーザーにとってだけでなく、社内に対しても同様なのである。
商品に関して言えば、日産は現在、車両の開発をCPS(チーフ・プロダクト・スペシャリスト)、CVE(チーフ・ヴィークル・エンジニア)、PD(プログラム・ダイレクター)の三すくみの体制で行なっている。言わば商品企画、開発、経理という分業だが、私はこれまでこの体制について、コミットメント制の下、目先の結果にとらわれがちなPDの存在が、無難で冒険を避けたクルマ作りに繋がる一番の問題と見ていた。
しかし先日話を聞いた日産の某幹部は、むしろ逆にPDの役割を強化したいと言う。曰く、PDが単なる予算配分者に留まらず、強い意識を持ってクルマ作りに取り組む。仮に儲からなくてもブランドにとって必要なクルマなら、それを経営陣に納得させるだけの熱意を持つべきなのだと。今までは、コミットメントに縛られ過ぎ、萎縮してしまっていたという訳だ。
当然、そのためにはそれを理解できる経営陣が居なければならない。その点、内田社長は先に記したように商品で示さなければ説得力が無いと考えている人物だけに、期待していいのではないだろうか。
11月に発表された4-9月期決算もきわめて厳しい数字が並んだ。しかし諸々の変革は徐々に進められており、社内、特に開発陣の間にポジティヴな空気が醸成されてきているのを、取材などを通じて私も実感している。
12月に登場した新型ノートは、e-POWERやプロパイロットといった日産自慢の最先端技術を搭載するだけでなく、クルマとしての完成度もきわめて高く、2021年のコンパクトカー市場を席巻しそうな勢いすら感じさせた。先述のアリア、次期フェアレディZも出てくる。積み重ねてきた電動化への努力にも、ここに来て追い風が吹いてきた。2021年が日産復活の序章となるのか、楽しみに見守りたい。
文=島下泰久 写真=日産自動車
(ENGINE2021年2・3月合併号)
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