2020年1月の東京オートサロンで発表されて以来、話題を呼んでいた、トヨタ久々のWRC直系4WDスポーツ、GRヤリスについに試乗することができた。競技を前提につくられたその走りっぷりはどんなものだったのだろうか。
元々はWRC(世界ラリー選手権)のトップ・カテゴリーに参戦するWRカーのベース車として開発されたGRヤリスは、その生い立ちからして特徴的だ。これまではすでに出来上がった市販車をベースに競技車両を仕立てていたが、このクルマでは寸法やパッケージング、エンジン性能等々すべての部分で、予め競技に使われることを前提に設計、開発が行なわれた。
ヤリスを名乗ってはいるものの、ボディは低全高の3ドアに変更。車高を低めているのは、WRカーのリア・ウイングはフロアからの高さが規定されていて、全高が低いほどしっかり風が当たることになるから。実は現行WRカーはライバルに較べて、この辺りがとても不利なのだという。3ドアの採用も、5ドアよりもフェンダー周りの造形の自由度が大きいことが理由で、ちゃんと意味があるのだ。しかもルーフは何とCFRP製。“CSMC”と呼ばれる新製法による大幅なコストダウンにより、全車への採用が可能となったという。
主力であるRZとRZハイパフォーマンスのエンジンは直列3気筒1.6リッターターボで、最高出力は272ps、最大トルクは370Nmを発生する。あえて3気筒としたのは、軽さとコンパクトさを狙ってのこと。実は開発にはインディカ-などのエンジンに携わった技術者も参画した、生粋の競技用ユニットである。このパワーは新開発の6段MT、そして前後トルク配分可変式のスポーツ4WDシステムを介して路面へと伝えられる。
実際の走りっぷりも、このスペックから抱く期待を裏切ることはない。まず車体の剛性感が凄まじい。そしてハンドリングは非常に軽快。ステアリングも目が詰まったようなフィーリングで、非常に精度の高い機械を操っているという感触がありありと伝わってくる。
そしてエンジンは、その吹け上がりの緻密さ、低回転域から密度の濃いトルク感で、3気筒のイメージを軽く吹き飛ばす。トップ・エンドまでリニアにパワーを盛り上げながら滑らかに回り切るこのエンジンを、秀逸なタッチの6段MTで操るのは、文句なしの快感だ。
前後トルク配分比を“ノーマル”の60:40、“スポーツ”の30:70、そして“トラック”の50:50の3モードに切り替えられるフルタイム4WDは、ワインディング・ロードでは軽快な挙動となるスポーツが一番楽しめた。プロトタイプではサーキットやダートコースも試しているが、走行するステージに応じて切り替えて好みのセッティングを見つけ出すのも、これまた楽しい。
RZに対して上級グレードのRZハイパフォーマンスには、ミシュラン製パイロットスポーツ4SタイヤとBBS製鍛造アルミホイール、締め上げられたサスペンションに前後トルセン式LSD、インタークーラー・ウォータースプレーなどが追加される。もちろん速いのは後者だが、一般道前提ならばRZでも十分楽しめると感じられた。最初はRZを選んでおいて、スキルアップあるいはクルマへの習熟に合わせて、好みのパーツで徐々に仕上げていくのもアリだろう。
これだけの内容を持った本格スポーツ・ギアが、400万円を切る価格(RZ)で手に入るのは間違いなくバーゲンと言うべきだろう。もっとも、その持てる力を発揮させるには、サーキットに持ち込むか、あるいはラリーに出たくなる。トヨタは今後、走る場所づくりや、パーツ販売などを積極的に行なっていくというから、将来の展開まで含めて楽しみな1台である。
文=島下泰久 写真=篠原晃一
(ENGINE2021年2・3月合併号)
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
advertisement
PR | 2025.02.07
CARS
モータージャーナリストの島下泰久さんと、ルノー・アルカナ・エスプリ…
2025.02.09
WATCHES
アンダー100万円の新作・注目作の時計4本! フォージドカーボンの…
PR | 2025.02.07
LIFESTYLE
フランスの香り漂う――。エティアムの人気モデルに、麗しきゴートレザ…
2025.02.02
CARS
車重2.5tの巨体がワインディングで気持ち良く走る驚きのロールス!…
2025.01.25
LIFESTYLE
まるで南国リゾートのような家 東京の自宅の隣にローコストで別荘を建…
PR | 2025.01.24
CARS
42台のそれぞれのディスカバリー物語【誕生35周年企画「私のディス…
advertisement
2025.02.14
「私なら門前払い」 ホンダと日産の経営統合破談会見を見て、国沢光宏氏(モータージャーナリスト)は何を思ったか
2025.02.10
ホンダと日産の統合への協議破談で日産の将来はどうなるのか? モータージャーナリストの国沢光宏氏が考察する
2025.02.11
ホンダも実は厳しい!? 日産との経営統合協議破談でホンダの未来はどうなるのか? モータージャーナリストの国沢光宏氏が考察する
2025.02.14
やはり難しかったか 第一報から2カ月弱、ホンダと日産の経営統合への話し合いの中止が正式決定
2025.02.20
なぜ従来型のオーナーは悩み、悔しがるのか? マイナーチェンジで新しくなった三菱アウトランダーを公道で試乗した