数多あるメルセデスのラインナップの中で、スポーツ・モデルの頂点に立つのがこのメルセデスAMG GT。500psを超える強心臓の4.0リッターV8ツインターボを前軸よりも完全に後ろのフロント・ミドシップに置き、変速機もディファレンシャル・ギアの直前に配置したトランスアクスル構造も取り入れるなど、速く走ることに焦点を合わせたFRのスーパースポーツだ。そんなメルセデスきってのスポーツカーに石井昌道氏が試乗した。
SLS AMGに次ぐメルセデスAMG独自開発の本格スポーツカーとして2014年に登場したメルセデスAMG GT。2シータークーペは、軽量・高剛性なアルミニウムスペースフレームをベースにカーボンファイバーやマグネシウムなど贅沢な素材使いで徹底的な軽量化や低重心化が図られている。ベーシックなGT、高性能バージョンのGT C、さらには公道を走れるレーシング・カーともいうべきGT Rがラインアップされ、それぞれエンジン・パワーや走りに関する機能パーツなどにも違いがある。
今回試乗したGTCは中間的なモデルということになるが、GTよりもリア・トレッドを拡げ、それを収めるためにワイドになったボディは GT Rと同様。4.0リッター V8ツインターボ・エンジンはGTが530ps、GT Rが585psなのに対して557ps。変速機とリア・ディファレンシャルをつなぐトルクチューブはGT Rのようにカーボンではなくアルミ製だが、ドライブ・シャフトはカーボン製。磁性体入りの液体マウントとした「ダイナミック・エンジン・トランスミッション・マウント」はGTではオプションだがGT CとGT Rは標準装備などと、けっこう細かく差別化が図られている。
車両重量は1710kgに抑えられているから加速は強烈だ。同日に試乗したポルシェ・タイカン・ターボSは電気の凄まじいトルクとAWDによって0-100km/h加速2.8秒と別世界だが、AMG GT Cの3.7秒だって十二分に速い。その日はクローズド・コースで全開のスタート・ダッシュを試せたが、人工的なエレクトリック・サウンドでシュイーンと走っていくタイカンよりも、低くて迫力のあるV8サウンドを奏でるAMG GTのほうが感覚的にも楽しめた。
また、リア2輪で駆動するFRだから、もしかしたらホイール・スピンするかもしれない、といったスリルがあるのもリアル・スポーツに乗る醍醐味だ。実際、この日はときおりパラつく小雨で路面が濡れていて、0km/hから全開でダッシュしていくと3000rpm付近でリア・タイヤが空転し、アクセルコントロールで回復させてから6500rpmまで吹き上がり2速にシフトアップ。5000rpmで繋いで再びレブリミットに向けてパワーが炸裂する6000rpmあたりでもまた空転するというスリリングなものだった。だが、姿勢は安定していて動きも手に取れるようにわかりやすいからドライバーは落ち着いてコントロールしていられる。広くて安全が担保されたクローズド・コースだからというのもあるが、こんなにもパワフルなリアル・スポーツと限界的な領域で一体になれることに、この上ない喜びがあった。
一般道にでてみると、その獰猛なルックスや加速力からは想像できないほど乗り心地がいい。サスペンションはそれ相応に引き締まっているが、あきれるほどに高いボディ剛性のおかげでスムーズにストロークするとともに、可変ダンパーをコンフォートにしておけば快適なのだ。
だが、真髄はコーナリングにある。パワフルなリアル・スポーツにはミドシップという選択肢があり、そのほうが限界的なコーナリング性能を高める効果も高いだろうが、ストリートで楽しむにはFRのほうがいい。さほど荷重移動などを意識せずとも、コーナーに向けてステアリングを切り込んでいけばスイスイと曲がっていき、パワーをかけたときの動きも素直。GT RよりもGT Cのほうがむしろいいのは、荒れた路面での足さばきにしなやかさがあり、絶妙なグリップ力をみせてくれることだ。これ以上硬いと、サーキットではいいだろうが、ワインディングではデメリットも出てくるだろう。
迫力のあるワイド・ボディにストリート・ベストなシャシー性能をもつAMG GT Cは日常をともに過ごすモデルとして最良の選択だろう。快適でどこまでも走っていきたくなるグランドツアラーとしての資質とワインディングロードを存分に楽しめるハンドリングが高いレベルで両立しているからだ。
文=石井昌道
(ENGINEWEBオリジナル)
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