タイトなリズムとコズミックなサウンドが合わさり、聴けば誰もが踊り出さずにいられなくなる「アスペクツ」という曲の12インチが発売されたのは、昨年9月のこと。その段階では名を伏せた覆面プロジェクトだったが、シングルは即完し、カリスマ的なDJらが絶賛した。プロジェクトの名前は、STR4TA(ストラータ)。実はこのプロジェクト、あのジャイルス・ピーターソンとブルーイが組んだものだったのだ!
クラブ系の音楽好きには説明するまでもないが、ジャイルス・ピーターソンはロンドン出身の多大な影響力を持ったラジオ/クラブDJ兼レーベルオーナー。1987年にアシッド・ジャズ・レコーズを設立し、ブラン・ニュー・ヘヴィーズやジャミロクワイらを送り出した。その後もトーキング・ラウドなど複数のレーベルやインターネット・ラジオ局などを立ち上げ、常にトレンドを生み続けてきた男だ。
一方のブルーイは、結成から40年以上もUK随一のジャズ・ファンク・バンドとして君臨してきたインコグニートのリーダー。つまりはUKジャズ・ファンクの礎を築いたふたりだが、そんな彼らが組んだSTR4TAが表現するのは、“今も人々を踊らせるエネルギーを有したブリット・ファンク”。盛り上がりを見せるUKドリル(重苦しくて不穏なヒップホップのサブジャンル)などには目もくれず、奇をてらったミクスチャーをするでもなく、自分たちが最も得意とし、進化させ続けてきた音楽性を、今のシーンに迷いなく提示しているのだ。そこからは「懐かしいなんて言わせない」という強い意志と誇りも感じとれる。
リリースされたばかりのアルバム『アスペクツ』も、その意味において一貫している。楽曲毎に多様なジャンルの音楽性を混ぜ合わせ……なんてことはしていない。ひたすら強烈な躍動感を持つブリット・ファンクで押し通すのだ。しかもギターのカッティング、広がりある鍵盤音、タイトなドラムと重いベースが強度を持って鳴り響き、生々しさと迫力が直に伝わってくる。それは70年代ジャズ・ファンクの発展形として生まれた80年代初頭のUKファンクが有していた熱気と活気を思い出させるものだ。実際ジャイルスは「あまり洗練されすぎないように気をつけた」と話している。思えばインコグニートもキャリアを重ねるごとに洗練されたバンドになっていったが、ブルーイもまたここで洗練から離れ、もう一度バンドを始めた当時の荒々しいライブの熱を表現したくなったのだろう。「ダンス・デザイアー」という曲もあるが、まさにその題のように、ダンスの欲望に満ち満ちている作品だ。
文=内本順一(音楽ライター)
(ENGINE2021年5月号)
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