自動車ジャーナリスト38名に本誌編集部員6名を加えた総勢44名の自動車のプロが20台、さらにエンジン・プレミアム・クラブ会員19名が5台、「新時代のトップランナーたち」とは? を考えながら、自分の欲望のままにクルマを選んだ。その集計により新時代におけるクルマのトップランナー100台が決定したのを踏まえて、ジャーナリストを代表する高平高輝氏と島下泰久氏の2名と本誌編集部員、村上、村山の2名による結果を読み解く座談会を行った。
まずはそれぞれの選考基準を
荒井 エンジンHOT100、2024年版の結果が出たので、座談会を行いたいと思います。今回は44名のジャーナリストと19名のEPC会員(読者会員)が投票を行いました。座談会にはジャーナリストを代表して高平高輝さんと島下泰久さん。編集部からはムラカミ編集長と若手のムラヤマ、そして事務局長のアライが参加、この5名で今回の結果を検証していきたいと思います。
村上 今回の指針となるテーマは「クルマ、新時代のトップランナーたち」というものです。新時代というのは、クルマがいま大きな転換点のなかにあるということ。トップランナーは今年のオリンピックにちなんで付けました。つまり、新時代のなかをトップランナーとして走っていくクルマはどれか? というテーマです。とはいえ、HOT100の基本ポリシーは、欲望のおもむくままに自分の買いたい、あるいはこれは是非お薦めしたいというクルマを選ぶということ。最後はそこに落ち着いているんではないかと思います。
高平 僕は公道で試乗したもののなかから、出来栄えのいいものをシンプルに選んだ。EVは1台も選んでいません。今後1~2年で世界的なレギュレーションが変わると思っているので。EVはもう少し見極めてからの方がいいと思ってます。
島下 僕は基本的にいつもと同じです。時代を鑑みて自分が欲しい、あるいはみんなで「欲しいよねえ」って話せるようなクルマを選んでます。ただし、今回は「もう大きなSUVはいいかなあ」という気持ちが反映されています。
村山 僕は圧倒的にみなさんより若い。だからいまはそんなに新時代にとらわれなくてもいいと思ってます。これから嫌でも新時代を生きるわけですから。だから自分が試乗したなかから、内燃機関の最高地点にいるクルマのなかで純粋に楽しい、面白いなと思えるものを選びました。
荒井 私は欲しても新時代は長く生きられません(笑)。昭和の価値観が澱のように溜まったワタシの心を「へえ」と感心させたものを選んだ。
村上 僕は内燃機関時代の最高到達点と、新しい電気時代の本格的なスタート地点の両方を味わえる現在を生きていることがすごく幸せだと思ってる。で、いままでは内燃機関時代の最高到達点の方から選んでいたんだけど、今回は次の時代への軸足の移動が感じられるクルマを考えながら選んでみました。
1位と2位はガチな戦い
荒井 ではさっそく総合順位を見て行きましょう! 2024年のHOT1はマツダ・ロードスター!
一同 パチパチパチ(拍手)
荒井 4年連続2位だったんですけど、今回5年連続1位のアルピーヌA110を抜いて1位になりました。
村上 今年のマイナーチェンジで電気系とコンピューター関係を一新した。サイバーセキュリティ対策ということだったけど、それは次の時代もこれを出していきますよという意思表示だよね。クルマ自体がブラッシュアップされて良くなったということに加えて、その意思表示が僕の脳裏に刻まれたんだ。それがロードスターを選んだ理由になった。
島下 若いムラヤマ君はデビューから35年目を迎えたクルマが1位になった結果をどう思ってるの?
村山 僕の1位です。
一同 おお!
村山 今回の改良で劇的にステアリング・フィールが良くなりました。僕はNBに3台乗り継いでいるんですけど、NBにこだわっているのはステアリング・フィールとスロットルのリニアな感じが好きだからなんです。NDにはそこに物足りなさがあった。でも今回新型に乗って感動しました。これだったら最新NDの方がいいかもしれないと思いました。なので1位にしました。
島下 いままで入れなかった私でさえ、15位に入れた(笑)。NDはいいクルマなんだけど、なんか教科書を読んでるみたいなところがあった。新型になって走りが好きな人が面白い!って心底思えるクルマになった。
高平 僕は3位に入れたんだけど、編集長の言う通りだと思う。オレたちはまだやる気だぞと。エンジンHOT100だって、まだトップをバリバリ狙うぜ、ということだと思う。それはトップランナーの考えだよ。
荒井 ではHOT2行きましょう! アルピーヌA110。6連覇ならずです。
高平 フレッシュネスという点ではちょっとね。最後の最後になって限定モデルをいくつか出しているけど、どんどん価格が上がってて、最初の頃の“この値段だったらちょっと頑張れば”という感じがなくなった。そういう意味でより新鮮なロードスターに票が流れるのは仕方がない。
島下 内燃エンジン車をいま買う理由は、エンジンが気持ちいいことだと考えると、相対的にA110は順位が下がってきてしまう気がします。
荒井 チュリニの試乗会をやってみんなをバンバン乗せれば良かった。
高平 旧世代から言わせると、チュリニって名前を付けるんだったらストリップ・ダウンして、安くしないと。まったく、わかってねえなあ。
村山 僕は15位にしました。前回は3位だったんですけど、手が届かない価格になってしまって。でもケイマンより300kg近く軽いのはやっぱり魅力です。
荒井 端境期な感じで注目度が下がるのは仕方ないけど、それでも2位だからね。
村上 すごいことですよ。
島下 乗ったら楽しいしね。
村上 1位と2位で何年も戦ってきたわけだけど、共通点が多い。パワーじゃないよ、軽さだよ、みたいな。
村山 投票した人数と点数は昨年のちょうど逆な感じです。
3位は電気自動車!
荒井 では3位に行きます。なんと電気自動車。ヒョンデ・アイオニック5Nです。
村上 これは今年一番の大異変というか、快挙だと思う。電気自動車がHOT3に入ったのは初めて。それは新時代の走る楽しみというものについてのまったく新しい提案をしてくれたからだと思う。そこは多いに評価したい。コロンブスの卵と一緒でさ、そんなに内燃機関がいいんだったら内燃機関そっくりの電気自動車を作ってやろうって、そんなことを考えた人はいないからね。
高平 ヒョンデはラリー・チームも持っているし、日本のメーカー以上にモータースポーツの世界で存在感がある。そのせいか、これはものすごく力がある。簡単にサンプリングしてどうのこうのっていうレベルじゃない。あの振動の感じとか、シフトショックとかを開発している開発チームが凄い。経験値のあるチームが本格的な仕事をしていると思う。
島下 バカバカしいと言ってもいいかもしれない提案を“おお、やろう”という組織の熱が面白い。そこは羨ましいです。韓国車を嫌いな人たちにこの3位という順位が刺さるといい。彼らが本気で遊んでいることが伝わると嬉しい。
村上 10年後にこのクルマをどう評価するのかっていうのは難しい問題になってくると思うけれど、「いま・ここ」で考えるとこのクルマの登場は衝撃だし、一石を投じたと思う。EVの作り方が変わってもっと自由な発想が生まれるといい。
高平 実際に走っている最高のゲーム機みたいな感じ。ちょっと不思議な感覚だね。
◆第4位は直列6気筒エンジン+後輪駆動でクルマ好きを虜にしたあのクルマ! 続きは【後篇】で!
話す人=高平高輝+島下泰久+村上 政(本誌)+荒井寿彦(本誌/まとめ)+村山雄哉(本誌) 人物写真=茂呂幸正
(ENGINE2024年9・10月号)
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