2024.11.24

LIFESTYLE

本木雅弘と小泉今日子が共演! 89歳の名脚本家、倉本聰が手掛けた映画『海の沈黙』が伝えるもの

老け役に挑戦

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今年で89歳となった脚本家の倉本聰が、久々に映画の脚本を手掛けた。“美術品の贋作”というテーマにこめられた名脚本家のメッセージを読み解く。

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美しいということ、それは絶対だ……

50代以上であれば、脚本家の倉本聰と聞いて、『北の国から』や『昨日、悲別で』といったTVドラマ、もしくは高倉健が主演した映画『駅 STATION』を思い浮かべる人もいることだろう。1984年に富良野市に開設した役者と脚本家の養成塾「富良野塾」の元主宰者としても知られ(2010年に閉塾)、北海道を舞台にした数多くの作品を世に送りだしてきた。

今年、89歳となった倉本氏が、36年ぶりに手掛けた映画の脚本がこの『海の沈黙』である。ご本人が「60年前から抱え込んできた」という、美術品の贋作というテーマに取り組んだ、ミステリアスな人間ドラマだ。



東京で行われた世界的な画家、田村修三の展覧会で事件が起きた。会場に足を運んだ田村が、展示作品の中に自分のものではない贋作が一点あると訴えたのだ。同じ頃、北海道の小樽で全身に入れ墨の入った女の死体が発見される。このふたつの事件から浮かび上がってきたのは、かつて新進気鋭の天才画家として将来を嘱望されていた津山竜次。画壇で田村の同期だった津山は、ある出来事を機に表舞台から姿を消していたのだ。

津山に扮するのは本木雅弘。命を削りながら、自身の芸術と格闘し続ける孤高の画家を、圧倒的な熱量をもって演じる。まもなく59歳になる本人よりおそらく十歳ほど年上の役柄だが、老けメークも自然でさほど違和感はない。また津山の若き日の恋人で、現在は田村の妻となっている安奈役に小泉今日子。お互いを思い続けながらも、結ばれることのなかった男女の再会シーンが切ない。

だが本作で倉本氏が最も描きたかったのは、人間にとっての美の価値についてだろう。人々に感銘を与えていた芸術作品が、贋作と判定された途端に、恥ずべきものとしてこの世から抹消される。実際に似たような事件があったそうだが、人々が評価していたその作品は、本当に価値がないものだったのか? 映画ではこんな台詞が登場する。

「有名であろうと無名であろうと、金持ちであろうと貧しくあろうと、美しいということ、それは絶対だ」

長年、人々の心に残る作品を書き続けてきた倉本聰氏。これが本作で一番残したかった名脚本家のメッセージなのかもしれない。



■『海の沈黙』 パリ・ダカールラリーを舞台にした『海へ 〜See you〜』以来、36年ぶりに映画の脚本を手掛けた倉本聰。主演の本木雅弘、小泉今日子のほか、石坂浩二、中井貴一、中村トオル、清水美沙、萩原聖人といったベテランの実力派が多数、出演している。また本作のロケ地となった小樽の景色も見ものだ。監督は『沈まぬ太陽』などの若松節郎。112分。TOHOシネマズ 日比谷 ほか全国公開中 配給:ハピネットファントム・スタジオ (C)2024 映画『海の沈黙』INUP CO.,LTD

文=永野正雄(ENGINE編集部)

(ENGINE2024年12月号)

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