2024年12月1日、創業110年を迎えたマセラティは、この特別な日を祝うイベントを東京プリンスホテルで開催した。
そこに集結した新旧マセラティは、110周年にちなんで110台。スカリエッティがボディを手がけた世界に1台しかないと言われる「A6GCSスカリエッティ」をはじめ、「3500GT」や「ミストラル」、初代「ギブリ」、「メキシコ」など、その1世紀を超える長い歴史を俯瞰できるような顔ぶれが揃っていたが、さらにもう1台、日本には初お目見えの最新モデルとして参加者たちの大注目の的となったのが、このイベントのために特別に空輸されてきた「GT2ストラダーレ」だった。
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この日、ゲストとしてトークショーに出演したエンターティナーの城田優さんも、「アンヴェールされた時、姿が見えた瞬間に衝撃的で、思わず笑顔になってしまいました。カッコイイです。もう、これが街を走っていたら、クルマ好きとかそうじゃないとか関係なく、誰もが見ちゃいますよね」と語るこの「GT2ストラダーレ」は、オーロラ・マットの美しくも精悍なボディ・カラーで身を装っていた。
アルカンターラを多用したインテリアも、フルバケット・シートをはじめとしたレーシーでスパルタンな要素を前面に押し出しながらも、マセラティならではのオシャレでエレガントな雰囲気を兼ね備えている。
「GT2ストラダーレ」がワールドプレミアを果たしたのは、2024年8月に米カリフォルニア州モントレーで開催された「モントレー・カー・ウィーク」。マセラティがGTレースに復帰するために開発された「マセラティGT2」と、カタログモデルの「MC20」を融合させた、レーシングカーを源流とするスーパースポーツカーとしてのマセラティの新たな頂点に立つ1台というのが、このクルマの位置付けとなる。
最高速度は324km/h。ミドシップに搭載されたネットウーノV6ツインターボ・エンジンは、MC20を10ps上回る640psの最高出力を持ち、約60kg低減された車重のおかげもあって、0−100km/h加速2.8秒という数字を叩き出す。
戦前のマセラティが、グランプリ・マシンをはじめとするレーシングカーの製造から出発したことはよく知られた話だが、「GT2ストラダーレ」は、1926年にタルガ・フローリオでクラス優勝して以来、このブランドの血の中に脈々と受け継がれてきたレーシング・スピリットを、サーキットはもちろん、公道でも体感できるように仕立てられた特別な1台ということができるだろう。
まだ、価格も生産台数も発表されていないが、頂点に立つモデルだけに、限定的なものとなることが予想される。どうしても手に入れたい人は、早めに動き出した方が良さそうだ。
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GTカーとしてのマセラティ
とはいえ、110年にわたる歴史を持つマセラティというブランドが持つ源流は、ひとつレースの世界だけにあるのではない。一方で、「3500GT」を源流とするGTカーとしてのマセラティの系譜があることも忘れてはならないだろう。そして、その系譜を今に引き継いでいるのが、そのままの名前を持つ「グラントゥーリズモ」であり、それをオープン化した「グランカブリオ」ということになる。
この日、フルモデルチェンジした新型が先ごろ日本上陸を果たしたばかりの「グランカブリオ・トロフェオ」に試乗した先の城田さんは、「初めてマセラティのオープンカーを運転して、正直、欲しい、と思いました。シート・ヒーターやネック・ウォーマーも付いていてまったく寒くない。むしろ、風が気持ちよくて、乗り心地も素晴らしかったのですが、ドライブ・モードをコンフォートからGT、スポーツ、コルサと切り替えていき、一瞬だけアクセル・ペダルを強く踏んでみた時には、運転していてGを感じてビックリしました。ぜひ、高速道路で運転してみたい。あのモードにはやられますね」と語っていた。
城田さんが短い時間の試乗でもハッキリと体感したように、GTカーとしてのマセラティの真骨頂は、ラグジュアリーカーならではのデザインや快適性、乗り心地と、レーシングカーを源流とするブランドであることを想起させる高いダイナミック性能の共存にある。
半年ほど前に、イタリアで開かれた「グランカブリオ」の国際試乗会に参加した時、モデナの本社からやってきたマセラティのデザイナーが、「世の中にニュルブルクリンクを走れるハイパフォーマンスを持ったクルマはたくさんある。その一方で、イタリアから北欧までの長距離を快適に走れるクルマもたくさんある。しかし、それを1台でこなせるモデルを持ったマセラティのようなブランドはそうあるものではないでしょう」と胸を張っていたのを、私は思い出した。
ましてや、それをクーペのみならず、よりエレガントなオープン・モデルでも、実用性をほとんど犠牲にすることなく実現したのが、新型「グランカブリオ・トロフェオ」なのである。なにしろこれは、2ドア・オープンでありながら、大人4人がしっかり腰掛けられるシートを備えているのだ。
スペックにも少しだけ触れておくと、フロント・ミドシップに縦置きされるMC20のそれをデチューンしたネットウーノV6ツインターボは、550ps/650Nmのパワー&トルクを発生し、8段ATを介して4輪を駆動。高速道路をGTモードで長距離移動する時には4WDならではの安定感と安心感のある走りを見せ、ワインディング・ロードでスポーツやコルサ・モードを選べば、スポーツカーならではの軽快な走りで、別の魅力を発揮する。
それに加えて、幌屋根を開けても閉めてもエレガントな美しい佇まいを持つ「グランカブリオ」は、「GT2ストラダーレ」がレーシングカーを源流とするマセラティの現在の頂点であるのと同様、ラグジュアリーなGTカーとしてのマセラティの最新の頂点にあるモデルと言えるのではないか。
スポーツの血脈を常に通奏低音として持ちながら、レーシングからラグジュアリーまで幅広く包み込むマセラティの世界に、ぜひ一度、触れてみていただきたい。
文=村上 政
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