2025.05.16

LIFESTYLE

還暦越えのデミ・ムーアが美にとり憑かれた女性の末路を怪演 映画『サブスタンス』で見せた女優魂

本作でゴールデングローブ賞の主演女優賞を受賞したデミ・ムーア。

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デミ・ムーアが加齢に怯える元人気女優を演じ、オスカー候補にもなった衝撃作が公開された。これまで見たことがない、彼女のぶっとんだ演技に圧倒される。

62歳で劇的な“カムバック”

1980年代から90年代にかけて活躍したハリウッドの人気女優、デミ・ムーア。50代以上の読者であれば、日本でも大ヒットした『ゴースト』や『セント・エルモス・ファイアー』といった作品を懐かしく思うことだろう。

そんな彼女も今や62歳。近年はショービジネス界の第一線から遠ざかっていた印象があるが、本人のキャリアを連想させるヒロインを演じた映画で昨年、劇的な“カムバック”を果たしたのである。今年度のアカデミー賞で作品賞、監督賞、そして主演女優賞にノミネートされた『サブスタンス』である。

デミ・ムーアが演じるのは、かつて一世を風靡した大女優のエリザベス。年を重ねた今は、過去の人になりつつあり、長年出演していたテレビ番組のレギュラーもついに降板させられてしまう。そんなエリザベスはある日“サブスタンス”(物質)という名の再生医療の存在を知る。その液体を注射すれば、体の細胞が分裂し、若くて魅力的なもう一人の自分が生まれてくるというのだ。恐る恐る注射を打ってみると、彼女の背中が破けて、そこから現れたのは……。

若さにとり憑かれた女性の末路

ジャンルとしてはホラー、もしくは荒唐無稽なブラック・コメディに属する作品だが、衰えゆく容姿に対する恐怖や焦り、失われた若さへの憧憬といったテーマはリアルで、しかも相当に痛い。劇中ではひとつの精神を共有する2人の女性が登場するが(年老いたままのエリザベスと、彼女の分身として現れた若い女性、スー)、次第に両者が対立していくことから、悲劇的という言葉が生ぬるく感じられるような、阿鼻叫喚のクライマックスへと猛進していくのだ。

メガホンを取ったのは女流監督のコラリー・ファルジャ。現実世界をスタイリッシュに、そして時にグロテスクにデフォルメしたかのような映像センスをもったつくり手だ。だが本作で強烈なインパクトを残すのは、やはりデミ・ムーアである。そのぶっとんだ怪演にはひたすら圧倒されるが、本作に妙な説得力があるのも、彼女の存在あってのもの。惜しくも最初で最後のチャンスであったであろうオスカーは逃したが、その見上げた女優魂には拍手を送りたい。

■映画『サブスタンス』作品詳細

本作で数々の映画賞に輝いたデミ・ムーアは、年を重ねたことで自分のキャリアは終わったのかもしれない、と考えていた時期があったという。かつてブルース・ウィリスと結婚していたことでも知られるが、今も彼とは家族のような親しいつきあいをしている。

デミ・ムーア扮するエリザベスの分身として現れたスーを演じるのはマーガレット・クアリー。彼女は、『セックスと嘘とビデオテープ』の女優、アンディ・マクダウェルの娘でもある。またその差別的な言動で、エリザベスを精神的に追い込んでいくテレビ番組のプロデューサーを演じるのはデニス・クエイド。80年代に『ライトスタッフ』や『インナースペース』などのヒット作で活躍した。R-15指定、142分。5月16日(金)公開。配給:ギャガ

文=永野正雄(ENGINE編集部)

(ENGINE2025年6月号)

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