2025.05.04

LIFESTYLE

【GWに聴きたいクラシック3選】3人の巨匠が残した記憶に残る録音 偉大なる音楽家たちの遺産を聴く

近年、相次いで世を去った名手の貴重な録音が登場。ナマ演奏を聴いているような臨場感に心が揺れる。GWは巨匠3人のクラシックを聴いてゆっくりすごしたい。

オーストリアの指揮者ニコラウス・アーノンクール(1929~2016)は1953年に古楽器アンサンブル、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスを立ち上げ、バッハやヘンデルを演奏。80年からはモダン・オーケストラも指揮するようになった。



しかし、誇り高きウィーン・フィルは、長年同じ街にあるウィーン交響楽団出身(チェリストとして在籍)のアーノンクールを指揮者として呼ぶことはなく、定期演奏会への出演は99年まで待たなければならなかった。そのライヴがブルックナーの交響曲第7番だ。精緻で深遠な演奏は細部まで神経が研ぎ澄まされたアーノンクール特有の緊迫感と集中力に満ち、冒頭から聴き手の心をとらえて離さない。以前、ウィーン・フィルの取材に現地を訪れた際、本拠地のムジークフェライン(楽友協会)の資料室に案内され、アーノンクールがここで原譜を研究していたことを知った。ウィーン・フィルとの練習中も、ひとつの音符に納得がいかないと資料室に現れ、確認を怠らなかったという。その探求心が録音に息づく。

ブラジルのピアニスト、ネルソン・フレイレ(1944~2021)はウィーンで研鑽を積み、パリで暮らした。情熱的でリズムが天に飛翔していくような躍動感あふれる演奏を得意とし、その奥にえもいわれぬ内省的で思索的な美質が潜む。



素顔のフレイレは物静かでシャイで気難しいタイプ。そんな彼の演奏はロマンあふれる美しい旋律とゆったりしたリズムに彩られ、聴き手の目を自然に閉じさせてしまう不思議な魅力を備えている。パリにもリオ・デ・ジャネイロの家にも犬や猫が数匹いて、「ヴィラ=ロボスの作品にはブラジルの魂が込められています。ジャングルや鳥など自然をほうふつとさせる面もあり、人々の温かな気質も音に込められている。私がヴィラ=ロボスを弾くと犬や猫の目がウルウルになるんですよ」とうれしそうに語っていた。そのヴィラ=ロボス「ピアノと管弦楽のための幻想曲《モモプレコース》」が3枚目の最後に収録されている。



アメリカのピアニスト、ニコラ・アンゲリッシュ(1970~2022)は、マルタ・アルゲリッチや諏訪内晶子との共演も多く、彼女たちが手放しで賞賛する名手だった。いずれの演奏も自然でおだやかで安定感に富み、曲が生まれた時代の空気をまとっているような感覚をもたらす。「両親と祖父母はさまざまな国と民族の血が入っているため、私もいろんなルーツを受け継いでいます。いろんな血が流れていることで多くの伝統や文化が自分のなかに混在し、それが各々の作曲家の作品を弾くときにとても役立っています」

そのルーツが録音でも威力を発揮している。

文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)


Nikolaus Harnoncourt
ニコラウス・アーノンクール指揮ウィーン・フィルのブルックナー:交響曲第7番。1999年6月ウィーン楽友協会におけるライヴ盤。まろやかで情感あふれるウィーン・フィルの響きと深々とした表現力、特有のテンポ設定などアーノンクールならでは(ワーナー)。


Nelson Freire
ネルソン・フレイレがSWR(南西ドイツ放送)に残した放送音源から1968年、1970年、1999年の貴重な録音が登場。ショパン、シューマン、ブラームス、ドビュッシー、スクリャービン、ファリャ、ヴィラ=ロボスというソロと協奏曲の構成(ナクソス)


Nicholas Angelich
ニコラ・アンゲリッシュの「オマージュ」と題した7枚組の未発表ライヴ&放送録音集(1999~2019年)。マルタ・アルゲリッチ、エベーヌ四重奏団、チョン・ミョンフン、トゥガン・ソヒエフらと共演。バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、リスト、ラヴェル、ラフマニノフ他(ワーナー)。

(ENGINE2025年5月号)

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